全作品を読破しているほしおさなえさん。待望の新作っ!!!いいなー!!!感動だなあー!!!今回のテーマは「染織」だよ。活版印刷も連歌も和紙も、日本の伝統文化を小説にする天才だねー!!!
「何者でもないわたしにも、明日はやってくる。累計30万部『活版印刷三日月堂』の著者が贈る、「染織」をテーマにした感動作。母の死をきっかけに生きる意味を見いだせなくなった槐(えんじゅ)は、職も失い、川越で染織工房を営む叔母の家に居候していた。そこに、水に映る風景を描いて人気の女性画家・未都の転落死事件に巻き込まれ、心を閉ざしていた従兄弟の綸も同居することに。藍染めの青い糸に魅了された綸は次第に染織にのめり込んでいく。「生きる」というテーマにまっこうから向き合う、著者渾身の感動作」そのエッセンスを紹介しよう。
・わたしだって生きていて楽しいわけじゃないし、煎じ詰めて言えば生きる意味なんてないと思っている。それでも生きていくために必要だから、愛想笑いをしたり、考えているふりをしたりして取り繕っている。生きるって、そういうことじゃないのか。家庭がどうあれ、だれだって結局は自分の力で道を切り開くしかない。
・わたしは何者かになろうと努力した。何者かというのがなんなのかわからないまま、とにかくいい大学に行けるように毎日勉強した。
・人に頭をさげなくても生きていける。母の言っていたのはこういうことだったのか、とはじめてわかった。
・「世界は色に満ちていて、人は色にあこがれる。でも、直接染まることはできないから、布に移して身にまとうのかもしれない。食べることはどんな動物でもするけど、そんなことをするのは人だけ。おかしなことだよね」
・「紫や茜は古くから歌われているよね。寒さを防ぐだけなら糸の色のままで良いはずなのに、人はなぜか糸を染める。防虫のような実用的な効能を持つ植物もあるし、魔除けの意味合いがあるとも言われているけど、それだけじゃないよね。人間はむかしから色にあこがれる。色をまとい、身の回りを色で飾る」
・「草木染めはおだやかなものに思われることが多いけど、植物の命を使うものなんだよね」
・「(鳥が)飛ぶのはあたりまえだと思ってる人も多いでしょうけど、僕は違うと思うんです。鳥が高いところを飛べるのは、落ちることを恐れないから。そう言っていた人がいたんです。人以外の動物は死を恐れない。死の先にあるものを想像しないから飛べるんです。もし鳥が死を想像できたら、鳥だって飛べないはず。動物の目がうつくしいのは、恐れがないからだと思うんです。でも、動物の目を見ていると怖くなる。心がないように見えるから」
・染める、というのは、生命を色にして、ほかのものに染み込ませることなんだ、と感じた。草木染めでも似たことを感じたことはあるけれど、身体じゅうの細胞でそれを感じた。人類はこんなふうにしていろいろなものを染めてきたんだな、と思う。ただきれいな色の衣服を身にまとうためだけじゃない。染めるということ自体が大事な行為だったのかもしれない。染めることで生命というものを感じてきたんじゃないか。
・技術が発達して、人はそうやって生きるのをやめてしまった。自分の手で糸を取って、染めて、織って。そのひとつひとつが、自分以外の命と向き合う行為で、むかしはみんなそうやって生きていたのに。布でも紙でもむかしは人の手で作っていた。そうするしかなかった。だがいまはなんだって工場の機械で作る。たくさん作ってたくさん売る。そうしなければ社会が成立しない。そう思い込んできたけれど、ほんとうにそれが正しいのかわからない。
・大量に生産するせいで、世の中にはものがあふれている。こんなに必要なのか。こんなにたくさん持っている必要なんてないんじゃないか、とも思う。
・手を動かすことで考えることはたくさんある。植物に触れることで得てきた知識もたくさんある。人はそうやって暮らしてきたのに、いまはそういうことが人々の暮らしからどんどん切り離されていっている。手を動かし、ものを作る仕事が好きな人もたくさんいただろうに、そういう仕事はどんどん少なくなっている。食べることもそうだ。自分でなにみ殺さなくても生きていける。殺していることを自覚しなくなる。それはどこかいびつなことに思えた。
・でも、わたしはまぼろしでもいいような気がする。それがまぼろしだったとしても、人がそれを追いかけるうちに生み出したものは、全部存在するものだからね。お祖母さんの着物も、未都さんの絵も。だから綸は織らないと。まぼろしを織らないと。そうしたらそれが残って、だれかのところに届くかもしれない。
・みんな自分のために織るんじゃないんですね。自分のためのつもりでも、結局はそうじゃない。答えはわからない。満足することもない。僕たちはただ、だれかになにかを手渡すために生きている。
・「織り手がかかわるのは織物ができあがる最後の最後だけ。蚕が糸を作り、人や機械が紡ぎ、草や木で染める。藍染めでは微生物の力も借りる。織り手は、そこまでの物語を一枚の布にする語り部にすぎない。だから、そもそもこれは僕だけの物語じゃない。藍染めをしていたときも、自分が藍に動かされているような気がするときがあった。人でない生き物に囲まれて、その命に触れて、僕は生きてる、と感じた。その感触がなにより大事なことで……」
・自分の心を守るためにはひとりで生きていくしかない。わたしはだれも背負えないから、わたしは誰も頼らない。そう思って生きてきた。だけどだれかと手を繋がないと超えられない壁もある。お互いにわかり合うためじゃない、壁を超えるために手を繋がないといけないときがある。
・わたしは死にたいわけじゃない。わたしは生きたいんだ。死には勝てない。命はいつか尽きる。何者にもなれなくていい。ただ自分の生をまっとうすればいい。綸の織っている布が見える。さまざまな色が重なり合い、ひとつの世界を作っていく。とん、ととん。綸が筬(おさ)で叩く音が響いて、その先に光る湖が広がっている。
「夜叉五倍子(やしゃぶし)」「臭木(くさぎ)」「藍」「蘇芳」「紫根」の五章。まったく興味がない染織だけど、奥深さを知ったなあ。ほしおさん、サイコーだなあ。超オススメです。(^^)