この本、いいわ。あまり期待しないで読んだら、惹き込まれて一気に読んでしまったっ!まさに「鉄道」から見た日本近代史だっ!!!
【日本橋から東京駅へ】
東京都中央区にある日本橋が架けられたのは、 徳川家康が江戸に幕府を開いたのと同じ慶長8(1603) 年とされている翌年には早くも幕府直轄の主要な五街道の起点とし て定められ、沿道に日本橋からの距離を示す一里塚が築かれた。 つまり江戸時代には、 日本橋を中心とした全国的な交通システムがすでに確立されていた わけだ。この点で日本橋という名称は象徴的だった。
・だが明治以降、街道に代わって鉄道が発達する。 当初は官設鉄道の新橋のほか、日本鉄道の上野や甲武鉄道の新宿( 後に飯田町)など、ターミナルが分かれていた。 第八代東京府知事となった芳川顕正は市区改意見書のなかで、 新橋や上野に代わる中央停車場の設置を唱えた。 中央停車場は日本橋とは異なり、旧江戸城西の丸に建つ皇居( 明治宮殿)と道路を通してつながることで、 天皇のための駅として位置付けられた。1914(大正3) 年に東京駅として開業する。その巨大な赤レンガの駅舎は、 本丸御殿に代わって全国の中心がどこにあるかを明示していた。 東京敵の各ホームからは「0キロポスト」 と呼ばれる起点標が眺められる。 日本橋を中心とする江戸時代からの交通システムが、 ここに受け継がれている。
【非常時における定時運行】
「町には一面に轟々(ごうごう) と音を立てて火炎が空高く噴き上げているのに、 電車がホームに入りひっそりと発車してゆうのが奇異に思えた。 電車は車庫に入っていたが、 鉄道関係者は沿線の町々が空襲にさらされているのを承知の上でお そらく定時に運転開始を指示し、 運転手もそれにしたがって電車を車庫から出して走らせているのだ ろう」(『東京の戦争』)
未曾有の事態が起こっているのに鉄道は平常と変わらない。 たとえどのような重大事が起きようが、 いつものように列車が走っている。 このことが人心の動揺をおさえ、 日常の平安を保つのにどれほどの影響を及ぼしたかは、 たやすく想像できる。 コロナ禍の拡大に伴い政府が緊急事態宣言を出しても、 鉄道はほぼ平常通り運行している。都市部の乗客は減り、 鉄道会社は軒並み減収減益に陥っても、 電車がダイヤ通りに動いていることで、 失われつつ日常の不安が保たれる意味は少なくない。
・電車に乗っている時間というのは、どういう時間なのだろうか。 車の運転とは違い、自分で運転する必要がないし、 ダイヤ通りに走る。電車のなかは公共空間であり、 会ったことのない客と乗り合わせる。スマホを見ている客にも、 会話ぐらいは聞こえてくる。「電車という箱は、 そこには乗っていない人のにおいまでも乗せて、 言葉によって乗せて、銀色のレールをなぞる。 なぞられて磨り減る。青空が後退する」(詩人・蜂飼耳( はちかいみみ))詩人の鋭敏な感性は、 そこにいない人間の存在感まで浮き彫りにする。
・ 鉄道による移動時間を少しでも短くしてきた各社のサービス自体が 、皮肉にもコロナ禍によって不要になった。 移動時間が全くない状態に置かれてしまった。 テレワークのためのボックスが設置されるでいいが増えている。 ここで改めて問いたい。列車に乗らなくなった代わりに、 人々は充実した時間を手に入れることができたのだろうか。 確かに満員電車による通勤や通学はストレスの原因になる。 それがなくなった喜びは決して少なくない。 しかし一般的に言って、 電車に乗っている時間は家族や組織や共同体などから離れて独りに なれる時間でもある。乗り合わせた客たちは、 いわば匿名の個人として向かい合っている。鉄道こそは「誤配」 の可能性に満ちた乗り物である。
・あえて言おう。 鉄道は経済的な価値に還元されない文学や芸術と同様、 人生にとって大切な文化ではないかと。 いまや欧州のほうが鉄道の文化的な価値に気づいているのに対して 、日本は採算に合わない路線をどんどん切り捨ていている。 それは欧州に比べて文学や芸術を大切にしない現在の日本のあり方 にもつながっている。
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いいなあ。鉄道って。大好き。福岡にきて、電車に毎日乗らないことも多い。噛み締めて、味わって乗ろう。オススメです。(・∀・)