「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「彼らの流儀」(沢木耕太郎)

 

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彼らの流儀 (新潮文庫)

彼らの流儀 (新潮文庫)

 
沢木耕太郎氏といえば、史上最年少で1000本安打、2000本安打を打った孤高の天才バッター・榎本喜八を描いた『敗れざる者たち』の中の『さらば宝石』が忘れられない。
 
さてこの本。「コラムでもエッセイでも、ノンフィクションでも小説でもなく、それらすべての気配を同時に漂わせる33の物語。「今」を生きる彼もしくは彼女たちの、過去も未来も映し出すような、不思義な輝き方を見せる束の間の時…。」その中で最も印象的な話を紹介しよう。
 
 
「鉄塔を登る男」
 
東京タワーのてっぺんの赤い灯、切れたら私たちが取り替えるんです航空障害灯といって飛行機がぶつからないようにつけてあるんですけど。その電球をナップザックに詰めて、てっぺんまで登っていって取り替えます。でも切れたら取り換えるというんじゃないんです。一年に一度、アンテナの点検をする際に取り替えてしまうんです。250メートルに特別展望台があってそこからは自分の手と足で登っていくしかありません。しばらくは階段がついていますが、313メートルから上はハシゴすらない。もちろん命綱などつけませんそんなものつけたら邪魔で登れないからです。
 
私たちはトビの職人でもなければ特別な訓練を施された専門の要因でもありません。放送用のアンテナのメンテナンスを担当している古河電工の普通の社員にすぎません。たまたま配属されたところがたまたまアンテナ部門でしたどうしてあんな高いところまで登っていくのかといえばトビの職人さんたちにおまかせするわけにはいかないからです。アンテナの状態は専門の私たちの眼で見なければわかりませんし、破損でもさせられると大変なことになってしまいます。
 
どういうわけか私は最初から鉄塔に登るのがあまり怖くありませんでした。この20数年の間に日本中の鉄塔を1000回以上登ってきました。東京タワーの場合、登るのは放送を終えた深夜です。それは強い電波が出ていると危険だからです。夜の作業は冬の時期など寒くて大変ですが、恐怖心は昼より少ないようです。中には登ったまま足がすくんで降りられなくなってしまう人がいます。そんな場合にはすぐ真下について一緒に一段ずつ降りてあげます。自分の下に誰かいると恐怖は薄らぐらしいんですね。
 
鉄塔に登る時は、いろいろ気をつけなくてはならないことがありますが、その第一が小便です。いちど上に上がったら何時間も降りられない。水分を節制しても寒いとしたくなってくる。だからビニール袋が必需品なんです。尿は霧になって散ってくれないんです。粒になって落ちてしまうそのままやるわけにはいかないんです。
 
高所手当は4時間でたった200円この仕事も後継者が育たなくて困っています。でも私はこれからも登り続けるだろうと思います。登って自分の眼で確かめたいし自動車通勤をしているので鉄塔にでも登っていないと体がなまってしまうあれも結構いい運動になるんです。きっと、私は60歳の定年まで登り続けることでしょう……。
 
その他、どれも惹き込まれる!
 
長嶋茂雄&一茂親子のことを書いた『ナチュラル』」
「大晦日の夜に書く男の名前『手帳』」
「偶然はじめた傘屋の話『あめ、あめ、ふれ、ふれ』」
「髪の毛一本ほどの差の『ミッシング(行方不明)』」
「『チャーミーグリーン』のカップルのその後は?『翠のカップル』
「老運転手の人生『胡桃のような』
「一文字違いでこんなに違う『我が名は……』」
アラビア書道にのめり込む『砂漠の雪』」
「バスの中での出来事『大根を半分』」
「モロッコを旅する3人娘の母『母たち』」
「老運転手の人生2『最後のダービー』」
「お気に入りネクタイの行方は?『ネクタイの向こう側』」
「出張先で…『理髪師の休日』」
「頭に描いた絵を実現する『星と虹』」
「背番号3に涙する『レンゲ畑の忘れ物』」
「いくつになっても女がほしい『ベッドの上の聖人』」
 

 こんな文章、ワタシも書いてみたいなあ。超オススメです。(・∀・)

 

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彼らの流儀 (新潮文庫)

彼らの流儀 (新潮文庫)