「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「飛ぶ夢をしばらくみない」(山田太一)

 


飛ぶ夢をしばらく見ない (小学館文庫)


以前ドラマや映画になったこの本。はじめて小説というカタチで読みました。タイトルが意味深。たしかにワタシも落ちていく夢やしばらく「飛ぶ夢をみていない」なあ。!(笑)著者はワタシのジモトの名門校・小田原高校卒業の山田太一氏。


「大腿骨を骨折して入院中の孤独な中年男・田浦は、二人だけの病室の衝立越しに出会った女性患者と不思議な一夜を過ごす。「私を犯して下さいますか」男と女の“声”だけの情交から、信じられない物語が始まる。再会した老女・睦子は「若返って」いたのだ。逢瀬を重ねるたびに、若い女性から少女へ、そして…。時間を逆行して生きる女性と中年男の、激しい愛と快楽の日々、やがて訪れるであろう別離の予感―。男と女は残された短い日々を感動的な終末に向かって走りつづける。リアルな描写と驚くべきストーリーが奇跡のように溶けあう名作」そのエッセンスを紹介しよう。


女に溺れるというのは、このようなことかもしれないと思った。このまま睦子の美しさだけに没入し、社会的に脱落することが夢のような快楽に思えた。昼間、会社の人間がこのあたりにいるということは少ないとは思ったが、仮に見られても構わなかった。どうでもいいような気がした。睦子に溺れることで、長い仕事の経歴に復讐するような、自分を裁くような気持もあった



「言葉が欲しいわ」と睦子がいう。

「言葉?」

なにか言葉。励まされるような言葉。こんな訳のわからない運命を納得出来るような言葉。気晴らしになるような言葉。笑っちゃうような言葉。感動するような言葉。なんでもいって。覚えている言葉。なんでもいってみて


「朝日と夕陽は、似ているわね」

「それは、老人と赤ん坊が似ているのと同じだよ。彼らは同じ “ 人生 ” という夢を見ているのだ。いっぽうは未来のかたちで、いっぽうは過去のかたちでー」


・睦子は自らの若返りを止める術を持たない。二人はいつか訪れる関係の終焉を予感しつつも、互いを愛おしみ、逢瀬を重ねる。本来であれば、二人の男女をともに老いさせていくはずの「時間」が、睦子だけを夕陽から朝日へと無慈悲に変えていく。彼らの「時間」との歪んだ三角関係を、胸を締めつけられながら見守ることになる。


・現実世界を生きていく中で、身も心も疲れ果ててしまった田浦の前に、あたかも現実の鏡像のように睦子は現れる。自立はじめた妻に対し、いじらしく田浦だけを頼ろうとする睦子。成長して親から離れようとしている息子に対し、しだいに田浦の手助けが必要となっていく睦子。彼女の肉体を支配する時間経過もまた、現実の鏡像であり、彼の目の前に現れるたび睦子という夢の花は、はじめは散り際だったものが、いつしか美しく咲き誇り、おころびはじめた蕾となり、やがて硬く閉じた花芽へと変わっていく。その時々の夢の花を、田浦は愛する。


・反対かもしれない
日常が重いからこそ
わたしたちはゆめでとぶのかもしれない
それに とぶゆめといふものは
蝶のやうに いい気持とは限らない
むしろ たいていは怖いゆめだ


……昔、大恋愛したときの感情と同じ、思い出すなあ……こんな夢を見たいなあ。超オススメです。(・∀・)


 


飛ぶ夢をしばらく見ない (小学館文庫)