この本は実にユニークだ。石川県金沢城跡に生息するヒキガエルを、9年間にわたり追跡した調査記録である。1526匹についての成長・繁殖・移動の克明な記録をもとに、彼らの生活史を明らかにし、1つの集団が消滅するに至るまでを追う。いわゆる生物学の本なのに、なぜこんなにおオモシロイのだろう。そのエッセンスを紹介しよう。
・ここ金沢城本丸にある小さな池に、毎年3月終わりから4月初めにかけて200匹近いヒキガエルが集まり、一年の最初の大仕事にとりかかる。だれに頼まれたわけでもないが、私は毎年そのヒキガエルを調べに出かけていた。この本丸跡で捕まえ標識したヒキガエルが、全部で1,526匹におよんでいる。
・そのなかで、私が特にこの個体にこだわっているのには、わけがある。初めて出会った時、一歳半にして彼は、左の後足が根元からない三本足のカエルだったのである。その時私は、生存競争の激しい生き物の世界で足を一本失ったカエルが一年半もの間よく生き延びることができたものだ、と感心した。彼はその後7年もの間元気に生き抜き、たった一度だけだが、彼女を得ることもできた。これは、私が調べた金沢城本丸跡のヒキガエルのなかにありながら、ほとんど毎夜のごとく餌を求めて活動する、例外的に勤勉なカエルであったことにあるらしい。私との55回におよぶ再会数がその勤勉さを証明している。そのおおらかで優雅なヒキガエルの世界へ、みなさんをご案内することにしよう。
・私の調査は9年目で挫折した。本丸のヒキガエルが絶滅してしまったからである。
・カエルの仲間(両生類・無尾目)は全部で3000種もいるが、その大半は熱帯から亜熱帯にかけて住んでおり、日本には30種あまりしかいない。そのうちヒキガエル属は三種いる。金沢市はアズマヒキガエルが生息している。
・オタマジャクシから変態して上陸するや、彼らは繁殖期以外は一生水の中にははいらない。
・冬眠中のヒキガエルは、よほどドジなことでもしない限り、ほとんど死なないのではないだろうか。生きて活動しているからこそ敵に狙われるのであり、雪の蒲団をかぶって寝ていれば襲われることはありえない。ヒキガエルの一年のなかで、どうやら冬眠の4か月がいちばん安全な時期であるらしい。
・孵化直後の幼虫は、まだ口も開かう、尻尾ものびきっておらず、体内の卵巣を使って発育をすすめる。オタマジャクシの形になるまでには、さらに5日間ほどかかる。オタマジャクシになるやいなや、彼らは猛烈な食欲で池のなかの食べられそうなもの、ごみや藻や魚の死体や、ありとあらゆるものを食べ始める。オスに絞め殺されたメスの死体が浮かんでいたら、それでも遠慮はしない。ネズミやカエルなど、小さな動物の骨格標本をつくる時には。ヒキガエルのオタマジャクシに仕上げをかせるとよい。彼らはありとあらゆる骨のすき間から筋肉をなめとって、きれいな標本をつくってくれる。
・私は、競争しない生き物のほうが競争する生き物よりたくさんいるのではないかと思っている。ヒキガエルのみならず、ほかにもあまりきびしい競争などせず、のんびりと生活している種もあってよいことになる。
高校の生物の副読本にしたいね。カエルちゃんって実に愛らしい。オススメです。(・∀・)