プロ棋士を目指す天才少年が集まる奨励会。正式名称は、新進棋士奨励会というプロ棋士養成機関である。そのには我々凡人には、想像を絶するドラマがあるのだ。
「奨励会……。そこは将棋の天才少年たちがプロ棋士を目指して、しのぎを削る”トラの穴”だ。しかし大多数はわずか一手の差で、青春のすべてをかけた夢が叶わず退会していく。途方もない挫折の先に待ちかまえている厳しく非情な生活を、優しく温かく見守る感動の1冊。第23回講談社ノンフィクション賞受賞作」そのエッセンスを紹介しよう。
・奨励会を退会した者の生き方はそれぞれである。指導棋士として将棋の普及に励んでいる者もいるし、専門誌や新聞に観戦記を書いている者もいる、アマチュアに戻り将棋の大会に参加して活躍している者もいれば、ぷっつりと将棋から縁を切ってしまった者もいる。そして杳として連絡を取れなくなった者も大勢いる。しかし、少なくともその写真によって切り取られた一日には誰もが同じ夢を抱き、おそらくはその夢を兼ねるだろう同じくらいの可能性をその手にしていた。羽生善治の瞳、森内、郷田、丸山のそして先崎の瞳。その輝きと少しも変わらない多くの、後の挫折者たちの瞳。その並列がいいようもなくせつない。歩道の上に散り、いつの間にか消えていった一枚一枚の花びらたち。
・「今でも将棋には自信がある。それがね、それだけがね、今の自分の支えなんだ。将棋がね、今でも自分に自信を与えてくれているんだ。こっち、もう15年も将棋指していないけど、でもそれを子供の頃から夢中になってやって、大人にもほとんど負けなくて、それがね、そのことがね、自分に自信を与えてくれているんだ。こっちお金もないし仕事もないし、家族もいないし、今はなんにもないけれど、でも将棋が強かった。それはね、きっと誰にも簡単には負けないくらい強かった。そうでしょう?」
・「だってこっち羽生さんなんかと戦ってきたんだから。この駒がその証拠なんだ。だからこんなことで負けるわけにはいかない。そう思って駒を握る。そうするとね、体は疲れ果てているんだけど体の奥の方がなんだか熱くなってくる。将棋のことを考えると、もうやめて10年以上経つけれど、体が熱くなってくるんだ。しびれた足に血が巡り始めて、力が漲ってくるような感じにね。それでね、真夜中に起き出して、今でもこの駒を持って戦う。羽生や郷田や森下と、今でも戦うことがある。夜中に一人きりで」
・「一度も後悔したことなんかないさ。こっち、今でも将棋に感謝しているよ、将棋が自信をくれたんだから」
特に、中座真、成田英二、花村元司九段、江越克将など。将棋界のドラマは小説より奇なりだ。これがプロの世界だ。超オススメです。(・ω<)