- 作者: 小松成美
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2008/07/29
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 27回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
「何度も失敗し、壁にぶち当たっては挫折を経験した。悔やんで傷ついて、隠れて泣いた。孤独に苛まれ、負ける恐怖と対峙し、極限状態にまで追い込まれた。そしていつも、そんな自分を理解してくれる人を求めていた。彼らは、弱い----。彼らの弱き姿、儚き心にこそ、真実がある。0.1%の栄光を求め、99.9%の苦しみに耐え努力した者の物語がここにある。人々を魅了してやまないトップアスリート35人の魂の軌跡」
その中でアスリートたちの生の言葉をいくつか紹介しよう。
【挑戦 野球 松坂大輔】
「日本一になったとしても、その一時は喜んで騒ぎますが。安堵することなんてありません。次の瞬間には、自分はチャレンジャーであることを思い起こしている。『もう満足だ』などと下を向いたら、自分を滅ぼすだけですよ」
「どうしてそれができなかったのかと考えていると悔しくて眠れないし、自分を許せない気分にさえなるんです。終わったことを気に病んでも
仕方がない。それは道理です。それでも僕は一瞬一瞬の悔しさを忘れたくない。ボールを投げる瞬間に、『二度と後悔はするまい』と強く思う。そのことは、僕が前進するための大切な足掛かりなんです」
「三振は積極的に奪っていきたいですね。三振は球場に咲いた花です。鮮やかに、いくつも咲かせ、ファンの方たちを楽しませたい」
「向かってくる相手をフェイントでかわし、タックルを仕掛けて不意を突く。その一瞬の動きまで封じ込めてしまう。そんな一連の動きが流れるように決まって勝利したときの爽快感は、言葉にできないですよ。すべての苦しさが吹き飛んで、ただ、『やったー!』と叫びたくなる。私は、あの爽快感を求めているから、厳しい練習にも耐えられるし。この先もマットに上がるのだと思います」
「おしゃれにも、遊ぶことにもあまり興味はありません。趣味といったら仲間とカラオケに行ったりするぐらい。楽しみは、大好きな焼肉を食べること。あとはすべての時間をレスリングに傾けたいと思っています」
【進化 スピードスケート 清水宏保】
「オリンピックを目標とするアスリートは、人生を4年という期間で区切って生きている。つまり、オリンピックに出場し、結果を出すことが人生のすべてなんですよ」
「僕がレースに挑む時まず最初にするのは氷との対話です。体と氷の感覚の対話によって、日々変わっている天気やリンクの状態を知り、そのレースに最適な滑りを探りあてていく」
「負けず嫌いの性格です。とにかく、無理だと言われることに挑戦することが好きなんですよ。みんながあり得ないと思っていることを、さらりと覆してみせる。その時の爽快感い魅せられいてるんです」
「リレハンメル出場を目標にした僕は。練習時間を確保するために友達との関係を一切断ち切りました。学園祭にも出ないでトレーニングする。勝負にこだわって、スケートに没頭する僕を理解してくれるクラスメートはひとりもいなかった」
「走っていて死を意識したのはアテネだけです。それほど苦しく、つらいレースでした。10キロ付近で吐きそうになりました。風邪と暑さのせいです。でもテレビカメラが目の前にあるし、ここで吐いたら恥ずかしいと思って必死で我慢しました」
「(金メダルのゴール後)嘔吐が止まらず、呼吸が困難になった。倒れ込み銀色の保温シートに包まれてスタジアムの地下にある医療スペースに運ばれたんです。ところがすぐに治療は受けられない。ドーピング検査のために尿を採取しなければならなかったから。ストレッチャーの上に寝ていたのですが、どんどん意識が遠のいていきました。このままひとりで死んでいくのか。と怖かった。ドーピング検査のあと治療を受け、なんとか動けるようになりましたが、あの時の恐怖は今も忘れませんね。それでも私はマラソンをやめらない。命を懸けることも厭わないです。あの日走った全員が、同じように思っているはずですよ」
「マラソンは確かに個人競技です。でも、私を支えてくれる監督、コーチやスタッフ、チームメイトがいなければ絶対に走れない。マラソンは、私にとって互いに助け合う団体競技でもあるんです」
「ハンマー投げは面白い。とにかく奥が深いんです。何万回投げても一度として同じ投てきはないんですからね。記録を伸ばすためにも、年齢によっても、投げ方に変化が必要なんです。変化といってもフォームを矯正するというような単純なことじゃない」
「競技者にとって記録を目指すことは大事なことです。しかし、僕がハンマー投げを続けているのは記録のためばかりではない。人間の肉体と、そこに宿る精神とに興味があるからですよ。だから、どんなに練習しても飽きません。試合で記録が出ても出なくても、そこから新たなテーマが生まれるんです。人間の肉体の可能性や、心を鍛練することへの興味はますます大きくなっていく。こうした競技に出合えた自分は幸せだと思っています」
「自分が世界を意識できたのは、心を開きどんな人ともダイレクトにコミュニケーションを取れたからです。各国の一流選手と知り合い、数々の助言をもらうことができた。選手に自分から声を掛けることを、恥ずかしいと思ったことはないです。父の教えと、旧ソ連やヨーロッパの選手たちから受けたアドバイスがあって、僕のハンマーはここまで進化できたんです」
【黙黙 野球 小笠原道大】
「野球という競技に全身全霊で取り組めば、苦しいのは当たり前です。僕自身、いつもその苦しみと向き合ってプレーしている。しかし、自分をぎりぎりまで追い詰め、奮い立たせてくれるものは、野球しかありません。過酷なトレーニングに臨もうと、不調に苦しもうと、そう思えます。グラウンドに出てボールを追いかけ、バッターボックスでバットを振れることの歓びは掛け替えのないものですよ」
【最速 陸上短距離 末續慎吾】
「部屋に戻ってから腹筋を2000回やろうと決めるんです。やり終えても本当にこれで十分なのかと不安になる。それで『意識を失うまでやる』とう自己ルールをもうけました。何度もやるうちに体もどんどん鍛えられて、意識がなくなるまでの時間が長くなる。あの頃は、寝る時間を削って練習していたので、休んだ記憶がないです」
【優美 シンクロナイズドスイミング 鈴木絵美子】
華麗な技で魅せるには、筋力や心肺機能を鍛え上げる必要がある。また、チーム(8人)がひとつになって演技をするには、地味な反復練習で心と動きを合わせるしかない。
「独創性や優美さは、シンクロでは大きな武器ですね。でも、楽しげに自由に動き回るだけでは決して勝つことができない。肉体的な鍛練は不可欠で、なおかつ技のひとつひとつには厳正な規律が求められる。私がシンクロをここまで好きになったのは、美を求める芸術性と、心身を鍛え肉体に備わった力を表現するスポーツであることが一体になっているからだと思います」
167センチ、58キロの均整のとれた身体は、長時間の激しいトレーニングだけで維持されるわけではない。一日5000キロカロリーほどの食事を摂ることも必要になる。「シンクロのトレーニングではカロリー消費量が多く、通常の食事ではどんどん痩せてしまうんです。なので、無理をしてでも食べて肉体を維持しなければならない。ちゃんと三食しっかり摂って、練習の合間には捕食も摂ります。体重の上下があると、水中での感覚が変わってしまう。浮力に変化があると演技に響くので、体重の維持には物凄く神経を使います。」
ん〜すごい!自分はなんて甘いんだろう…。トップアスリートたちの爪の垢でも飲まなければ!そして何よりもこれらの言葉を引き出した著者のインタビュー能力に脱帽だ。秀作です。おススメ!(^<^)