「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「夜と霧 新版」(V・E・フランクル)

   


夜と霧 新版


毎日、いろんな本を紹介していてぜひ読んで欲しい本が山ほどあるんだけど、逆に読まない方がいいかな…という本もある。40年以上前のベストセラーでもあるこの本は後者だ。


原題は強制収容所における一心理学者の体験」ユダヤ人としてアウシュヴィッツに囚われ、奇蹟的に生還した著者は、医者でもあり、心理学者でもある。彼から見た極限状態の人間というのはどのようなものだったのか?内側から見た強制収容所はどうようなものだったのか?あまりに生々しすぎて、しばし手が止まった。本を読むスピードは早いのだが、一週間かかった。これは決して想像では書けないだろう。「事実は小説より奇なり」だ。そのエッセンスを紹介しよう。



・収容者生活への被収容者の心の反応は三段階に分けられる。それは施設に収容される段階、まさに収容所生活そのものの段階、そして収容所からの出所ないし解放の段階だ。


アウシュヴィッツでは、被収容者は到着するとすぐ持ち物をすべて取りあげられ、身分を証明するものを一切失う。一人ひとりはまさにただの数字であって、事実、リストには被収容者番号しか記入されなかった。ただの119104というのが私ー心理学者の番号だ。


・被収容者はおおむね、生存競争の中で良心をいしない。暴力も仲間から物を盗むことも平気になってしまっていた。そういう者だけが命をつなぐことができたのだ。私たちはためらわずに言うことができる。いい人は帰ってこなかったと。


・私は医学者として、あることを学んだ。教科書は嘘八百だ。人間は睡眠を取らなければ何時間だか以上はもちこたえられない。まったくのでたらめだ。収容所では一度も歯を磨かず、あきらかぬいビタミンは極度に不足していたのに、歯茎は以前の栄養状態のよかったころより健康だった。人間はなにごとにも慣れる存在だ。どこまでも可能だ。たが、どのように、とは問わないでほしい…。


・最後のころの一日の食事は、日に一日あたえられる水としか言えないようなスープと、人をばかにしたようなちっぽけなパンで。それに「おまけ」がついた。それは20グラムのマーガリンだったり、粗悪なソーセージ一切れだったり、チーズのかけらなどで、これは日替わりだった。体には抵抗力など皆無だった。居住棟の仲間はばたばたと死んでいった。つぎはだれか、自分の番はいつ回ってくるか。だれでもかなり正確に予見できた。いろいろ見聞きしているために、確実に死期を予言できる兆候をいやというほど知っていたのだ。


・わたしはときおり空を仰いだ。今この瞬間、わたしの心はある人の面影−妻−に占められていた。ある思いがわたしを貫いた。愛は人が人として到達できる究極にして最高のものだ。愛により、愛の中へと救われること!人は、この世にもはやなにも残されていなくても、心の奥底で愛する人の面影に思いをこらせば、ほんのいっときにせよ至福の境地になれるということを私は理解したのだ。


ユーモアも自分を見失わないための魂の武器だ。ユーモアとはほんの数秒でも、周囲から距離をとり、状況にうちひしがれないために、人間という存在にそなわっているなにかなのだ。


・この世にはふたつの人間の種族がいる、いや、ふたつの種族しかいない、まともな人間とまともではない人間。ということをこのふたつの種族はどこにでもいる。どんな集団にも入り込み、紛れ込んでいる。まともな人間だけの集団も、まともでない人間だけの集団もない。したがって。どんな集団も「純血」ではない。監視者のなかにも、まともな人間はいたのだから。


・(収容所から解放されて)わたしたちが自由になったのだと頭の中で繰り返してもおいそれとは腑に落ちない。自由という言葉は、何年もの間、憧れの夢の中ですっかり手垢がつき、概念として色あせてしまっていた。うれしいとはどういうことか忘れていた。それは、もう一度学び直さなければならないなにかになってしまっていた。


・精神的な抑圧から急に解放された人間を脅かすこの心の変形とならんで、人格を損ない、傷つけ、ゆがめるおそれのある深刻な体験は。自由を得てもとの暮らしにもどった人間の不満と失意だ。〜中略〜


…すごいな…。絶望という言葉は安易に使ってはいけない気がする。そしてこのような事実があったということは21世紀に語り継がなければならない。勇気を持って一度手に取って欲しい本だ。


読書ノート 『夜と霧』 フランクル
http://www.din.or.jp/~honda/tokio14g.htm


   


夜と霧 新版