40数年ぶりに再読している星新一。いいねえ、時代を超えてメッセージが伝わる。まったく古びた感じがしないのはさすが!♪
「日本にショート・ショートを定着させ現在SF界の第一人者である著者が、その十年間の作家生活の中で書き綴った、百余点のエッセイを収録。子供の頃の思い出や食べ物の話、映画や旅行の感想等は、星新一の創作の秘密の一端を覗かせるようであり、また、その博識や卓抜した着想に触れて、読者は限りない興趣を覚えるであろう」そのエッセンスを紹介しよう。
・星という姓は父の郷里の福島県南部に多いが、 理由はわからない。 かつてその地方に大隕石でも落ちたのであろうか。友人が時たま、 名前を逆に読み「まさに一新星だ」と、おせじを言ってくれる。 だが、当方は複雑な気分になる。なぜなら、 新星とは恒星の寿命がつき大爆発を起こした状態のことだからだ。 あるいは、その逆なのだから、 縁起がいいと考えるべきなのだろうか。
・アイデアというと、 天来の掲示の如く出てくると思っている人があるが、 私にいわせれば、得られるものではく、育てるものである。 雑多な平凡な思いつきを整理し、 選択し手を加えることに精神を集中しつづければ、 なにかが出てくるのは確実である。
・想像力とは、知識と体験と常識をつみ重ね、 さめきった頭で処理するところに発生する。 現実の物語を書くのにくらべ一段と孤独な作業なのではないだろう か。
・犬山は最近あなり有名になった。修復が終わった国宝犬山城、 サルの研究をするモンキー・センター、開村したばかりの明治村。 この三つのためである。 そして面白いのはこの3つに共通点があることだ。 第一に意義があること、第二に大金をかけたこと。城には国家が、 モンキー・センターと明治村には名古屋鉄道が、 いずれも相当な費用をつぎ込んだ。そして第三に、 どれもいささか浮世ばなれがしている点だ。
・人類が時計を発明したことは、画期的な事件である。 時間という抽象がかったわかりにくいものを、 針の角度という資格的な形に変化させることに成功した点である 。それによって、日常の生活が区分しやすくなったわけである。 したがって、時を数字であらわそうと試みるのは、 逆行としか思えない。そのうちこの調子だと、 液が上下する寒暖計にかわって、 数字があらわれる寒暖計も作られると思われる。そして、 これもまた実感ともなわない困った装置となるだろう。 数字式の時計を作るくらいなら、 針のついたカレンダーを案出してもらいたいと思う。
・文明とは計算である。計算といえば金銭である。
・春風亭柳橋が高座にあがった。 さすがに年季をつんだ貫禄を感じさせる。 若い演者たちはどうも肩に力が入りぎみである。そこへゆくと、 柳橋は肩の力をすっかり抜いていながら、人を引き付ける。 国会の先生方も、このコツを見習うといいと思う。といっても、 そう簡単に身につくものでもない。 サービス精神と長い勉強によってしか得られないものだ。
・史上最初の機関車が走った時、ある専門家は「 時速五十キロのスピードで走ったら、人間は窒息死してしまう」 と大まじめで主張したそうである。 エジソンが白熱電球を完成した時、著名な専門家たちは、 実用価値皆無と報告した。ライト兄弟が飛行機を作った時も同様。 「いかなる物質といかなる機械と、 いかなる動力を結びつけても飛行機械は製造不可能」 と著名な天文学者が言った。そして、飛んだら飛んだで「 少しは飛ぶかもしれないが、 輸送手段としては決して利用できない」と主張したという。 世の進歩をはばむものは、大衆の無理解ではなく、 専門家と称する人の保守性のほうにあるようである。
・私が作家になったのは、自由業なら、 つぎの日の朝のことを心配せずに飲めるからといい、 という考え方が無意識にうちにあったのかもしれない。だが、 なってみると案に相違していた。 仕事が一段落するのは午前の四時頃で、飲みに行きようがない。
いいねえ、星新一。ショートショートの発想の原点がわかるね。オススメです!(・∀・)