「Jポップとは何かー巨大化する音楽産業ー」（烏賀陽弘道）

Jポップとは何か: 巨大化する音楽産業 (岩波新書)

いつの頃からか「JPOP（Jポップ）」というコトバを聞くようになったよね。おそらくワタシが音楽を聞かないようになってからだね。そんなときに見つけたのがこの本。

「1990年代、日本の音楽産業は急激な成長を遂げる。CDのミリオンセラーが続出し、デジタル化や多メディア化とともに市場規模は拡大し続け、いまや日本は世界第二位の音楽消費大国である。こうした変化をもたらした「Jポップ」現象とは何か。産業構造や受容環境の変化など、音楽を取り巻く様々な要素から鋭く分析する」そのエッセンスを紹介しよう。

・「Jポップ」という言葉が生まれたのは1988年だが、それからの十年という短期間で日本のレコード市場は三千億円から六千億円規模へ、二倍という急激な成長を遂げているのである。88年〜98年までの、遅れてきたバブル景気にも似た十年は「Jポップバブルの十年」あるいは「Jポップの十年」と呼んでいいかと思う。

 

・88年という年は、一体どんな年だったのか。まだ年号は「昭和」である。が、それも終りを迎えようとしていた。10月に開局したばかりのFM局「J-WAVE」に、何人かの男たちが集まっていた。彼らは、ミーティング室にこもっては、それぞれ持ち寄ったサンプル曲を聞きながら議論を続けていた。話が終わらずに日が落ちると、局のそばにある飲食街に出ては夕食の席で話を続ける。そんな集まりが毎週一、二回、定期的になった。彼らは東芝、ビクターといったメジャーレコード会社の邦楽宣伝担当者と、J-WAVEの編成担当者である。「洋楽しか流さないJ-WAVEで、邦楽をオンエアするようなコーナーを始められないだろうか」それが彼らの議題だった。なにしりお、時報すらない、名前のとおりか、絶え間なく寄せる「音楽の波」のような設計だった。

 

・FM東京を中心としたそれまでにFM局は、一時間を基本単位に番組が区切られていた。それは「エアチェック」を前提とした設計だった。「エアチェックしたカセットを車の中で聴くくらいなら、J-WAVEがそれを代行します。それがコンセプトだった。エアチェックをなくしたのがJ-WAVEだった」。その狙い通り「FM誌」は次々に廃刊にお追い込まれた。

 

・「ジャパン・ポップス」にしてもジャパニーズ・ポップスにして「J」は同じなんだから「Jポップ」で良いんじゃない？短い方がいいよ。ラジオで言いやすいし」「Jポップ」という名前が生まれ落ちた瞬間である。苦笑が漏れた。「Jポップ？何だ、そりゃ？」と。関係者の記憶ははっきりしないが、88年末か89年初頭のことだ。「Jポップ」という名称が運んだのは「日本のポピュラー音楽が世界に肩を並べるようになった」というファンタジーだった。

 

・当時の時代の象徴するもうひとつのキーワードは「ゆとり」「余暇」である。企業の文化事業のひとつとして、広告代理店を仲立ちに、企業がコンサートに協賛金を出す「冠コンサート」が88年から91年にかけて、全盛期を迎える。（第一生命、明治乳業、JR東海、花王など）

・ここで特筆すべきは「Jポップ」なる名称が、レコード会社という売り手の発案で、それもFMラジオというマスメディア上のカテゴリーとして作られたということだ。

 

・「Jポップ」は何が「死ぬ」ことで新しく誕生したのだろうか。それは「邦楽」あるいは「歌謡曲」というジャンル名である。新時代の音楽というイメージを打ち出した。つまりJポップとは、かつて歌謡曲、ロック、フォークなどと呼ばれたジャンルをすべて解体してシャッフルし、再構成した名称なのである。

 

・CD普及期である80年代後半から90年代に人気を獲得したスターに、プリンセス・プリンセス、渡辺美里、永井真理子、中村あゆみ、山下久美子ら「ガールズ・ポップ」と呼ばれる一群がいる。共通しているのは「夢をかなえるべく前向きにがんばり、成長していく女性像」だった。彼女たちの人気を支えていたのは、実はCDの購買層として新しく登場した女性である。ガールズ・ポップの歌手たちは、女性から見て好ましい女性像を個性として見せていた。これは、アナログレコード時代にデビューした女性歌手たちが、男性を購買層に想定していること、あるいは人気を支えたのが男性層だったのとは対照的である。ほぼ同時期の88年4月に「男女雇用機会均等法」が施行されたことも、忘れてはなるまい。これは女性が男性と同等の所得を得て、同等の購買力を身につけるちう時代の幕開けでもある。

 

・「アナログ時代の録音が手づくりの「おふくろの味」なら、デジタル時代の録音は、つくり方も味もレトルト食品みたいなんです」

 

・「音楽」「テレビ」「広告」が合流して「Jポップ産業複合体」が生まれた。新しいメディア空間を生んだ。

 

 

「CD普及へソニーの戦略」「楽器を弾かなくてもよい音楽制作」「コストダウンと大量生産」「「音楽が消耗品」の時代」「テレビ・タイアップの力」「聴覚型から視覚型へ」「カラオケは巨大音楽メディア」「セゾン・パルコがつくった広告空間」「公共財として扱われない」「女子高生がヒットをつくる」「CDが売れなくなった」「テレビ・タイアップが威力を失った」「CDから着メロとDVDへ移行」「インディーズがメジャーと比肩」「近代化されない「暗部」が残った」

エアチェック、懐かしいなあ。「FMレコパル」買ってたなあ〜！マルディロ、懐かしい〜。青春の音楽史がわかるなあ。オススメです。(・∀・)

Jポップとは何か: 巨大化する音楽産業 (岩波新書)