「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「菓子屋横丁月光荘 金色姫」(ほしおさなえ)

 待ってました!!!ほしおさなえさんの最新作っ!!!ほぼ全作品を読んでるけど、やっぱりほしおさなえワールドはスゴイっ!!!読みながら涙が出そうになったわー!♪
 
 
古民家〈月光荘のイベントスペースとしての運営を任されることになった遠野守人修士論文提出後の小正月「庭の宿・新井」で開かれる繭玉飾り作りを取材しつつ、イベント開催の段取りを学ぶ。そこに、守人と同じく家の声が聞こえ、かつて養蚕を営む家で育った喜代も参加することになった。将来に向けて動き出した仲間たち、思いがけない再会、大切な人との別れ──。土地と記憶をめぐる四世代にわたる物語、感動のシリーズ第五作」そのエッセンスを紹介しよう。
 
 
・みんな育ち、ここを去っていく。それは、木が次々とやってくる鳥たちに抱くのと似たような思いなのだろうか。木の芽が出て、茂り、葉を散らす。木谷先生はここで何度その風景を見てきたのだろうか。大人になるというのは、ひとところに根をおろしくりかえす季節をながめるようなものなのかもしれない。おだやかに、なにも揺るがないように見えるが、そうやってやってきたものが去っていくのを見続けるなかには、さびしさもあるのかもしれない、と思った。
 
月光荘の話では、お正月、家たちはみんな人になり、あの白い世界に行くらしい。だから町を歩いていても、どこからも家の声がしない。
 
養蚕は急速に忘れ去られていきました。いまのうちに聞き取りをおこなって考察し、後世に伝えなければいけない、と考えています。
 
歳を重ねた人の頭のなかはどうなっているんだろう。生まれたときから頭のなかの世界はだんだん大きくなって、複雑になって、まるでほんとの世界のように広さや奥行きがある場所になって、自分にも行き着けない場所がたくさん場所がたくさん出てくるのかもしれない。
 
みんながみんな、自分が思ってることを言葉にできるわけじゃないのよねえ。考えを言語化するのって、訓練しないとできないのかもよ。
 
男の子は強くならなくちゃいけない、ってみんな言うけど、ほんとに強い人は、やさしい人なんだよ力ずくで言うことを訊かせようとする人は、単なるお馬鹿さん。
 
お蚕さんは神さまみたいなものだからね。この石はお守りにして、大事にするよ。
 
これが仕事というものなんだろう。外の人につながって、いろいろな理屈で物事が進んでいく。その場に応じて考え、対応する。立ったり座ったり。歩いたり走ったり。なにかをよけたりバランスを取ったり、状況に合わせて身体を動かすのと同じように大工として働いていた父や祖父の姿をぼんやり思い出した。自然な動きで、なにも考えてないように見えた。でもきっとあれは、身体全体で考えていたんだ。いや、考えるより早く、身体を動かすものがあるのかもしれない。
 
・「不思議なもんだよなあ。学校というのは毎年別れがあるだろう?この別れによって僕の心のなかにも年輪ができているような気がす。時期が春だから余計にそう感じるのかな。会社だとここまではっきり年輪は刻まれないだろうし、時の流れに対する感覚がちがったかもしれないね」
 
オカイコサマは見てる。わたしたちの暮らしを桑といっしょにそれを食べて、身体にどんどん溜めていく。オカイコサマの心は、ずっと遠くまでつながっている。ひとりのオカイコサマから別のオカイコサマへ、だれかの人生の物語が撚り合わさっていつかひとりのオカイコサマがそれを吐いて繭にする。物語の糸は光っている。わたしにはそれが見える。わたしはそれを、読むことができる。
 
・喜代さん、いまは痛くなくなったんだろうか。辛くなくなったんだろうか。あかるいところにいるときだけ、身体という形を持つ。ーあかるいか暗いかだけ。きっと同じことなんだと思う。喜代さんのこぼした言葉が蚕の糸のようにきらめく。忘れたくない、とつぶやいた。
 
「ばあちゃん、前に言ってたもんなあ。自分も死んだら家のなかのひとつになる、って。そういうことなのかなあ」
 
僕たちは生きている。向こうの暗闇のことはわからないまま、あかるい場所で花が咲いたり、散ったりするように、そうしてたがいになにかを選ぶ。自分でもそれと知らないうちに。春の匂いの風が吹いて、喜代さんが、またね、と言っているような気がした。
 
「生命は 吉野弘

生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命は
その中に欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分
他者の総和
しかし
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思うことさえも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?

花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光をまとって飛んできている

わたしも あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない
 
 
「金色姫の伝承」

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いいなあ……家の、家族の歴史ってこんなふうに繋がっているんだなあ。このシリーズ、ずっと続けてほしいなあ。個人的には日月堂の弓子さんが出てくるのがウレシイ。超オススメです。(・∀・)