福岡に来て、通勤時間がなくなったので、めっきり本を読む時間がなくなった。ちょっとイライラしている。(笑)20年続けている毎日のルーティンがなくなるって、そういうことだね。電車の揺れで本を読むのが別の世界にトリップするんだよね〜!
さてこの本。全作品読破を目指している上原隆さんの本。
「7年に及ぶ母の介護を終えた娘、定年の日を迎えた中卒サラリーマン、腐らずもがき続けたベテランマンガ家―― 普通の人々のささやかな日常に光を当てたノンフィクション・コラム。読み終えたあと、生きることへの希望、勇気がわいてきます。解説・穂村弘。朝日新聞夕刊好評連載」その中でもイチバン印象に残った話を紹介しよう。
【落ち葉掃き】
・母がアルツハイマー型痴呆症だと診断された。「これからひどくなる一方ですよ」と医者に言われた。冨美子はショックで返事さえできなかった。母は一日中質問する。「私の娘はお前の他に誰か居るの?」「私の財布はどこ?」「明日晴れるかなー!」……答えてもすぐに忘れるらしい。同じことを何度もきく。
・時々、母は正気に戻る。「ねえ、毎日どんな気持ちなの?」「ずーっと私、なにやってるのかわかんないんだよね」という。次から次へと物事を忘れていくので、ここがどこか、いてもいいのか、食事はできるのか、いつも不安の中にいるらしい。
・近所の人がたき火をして、焼き芋をつくってくれた。母は「オイモ若きも大好きなお芋」とダジャレをいった。みんなが笑った。〈ああ、母はよく冗談をいってたな〉富美子は若い頃の陽気な母を思い出した。「入れ歯ここに置くわよ。お母さん、この家にずっとイレバ」。母は眠いのをこらえて「お前がやさしくくれレバ、お金があレバ」などという。翌日には忘れているので、毎晩同じダジャレをいう。毎晩母は喜び「お前って面白いね」と笑ってくれる。
・タオルの縁がほつれているのを見た母が、「針と糸を持っといで」といった。上手にタオルの縁をかがってくれた。縫い物も母が夢中になれるものだとわかった。古い布を集めてぞうきんを縫ってもらうことにした。その間、冨美子は横になることができた。気がついたら寝ていた。「女は疲れるからね、だんなさんのいない時に休みなさい」といいながら母がタオルケットを掛けてくれた。涙がこみ上げてきた。
・「介護から得たものってなんですか」「そうね。自分に対しての満足かな。思い出すのは喜んでる母の顔ばっかりなの。良かったと思って。つらかったことって忘れるのよ」
その他「街(金沢美術工芸大学)」「父は虫プロの編集者」「定年退職の日」「現実の博物館」「傷を見るのをやめた」「ジタバタした(マンガ家かまちよしろう)」「記憶だけで生きてる(穂村弘、もりまりこ)」「枇杷の木」「画家・石井一男」「喜寿の祝い(母へのインタビュー)」「泣くことでしか耐えられない」「ようこそ、「老人の王国」へ」「どんぐり」「的中りんご」「二人でいる時にひひとりになるには」「キャッチボール」「生きる意味(天文学者・磯部琇三)」「心は女性」「同級生」など。
何気ないフツーの平凡な人でもいろいろなドラマがあるんだね。オススメです。(・∀・)