「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「胸の中にて鳴る音あり」(上原隆)

上原隆さん、いいなあ。癒やされるなあ。このジャンル、なかなか書く人いなかったもんね。何気ない文章の中にキラリ、光るものがある。まさに「人生いろいろ」だね。(・∀・)
 
「“不倫のメリット”に悩む女性、介護地獄に向き合う元キックボクサー、レズのシャンソン歌手…ふと涙のでるコラム・ノンフィクション」その中でも最も響いた章を紹介しよう。
 
【東大の時計屋】
 
東京大学安田講堂の地下に時計屋があって、戦前からずっと同じ店主が続けているときいてやってきた。もう、やめようかと思って、だって、あと二年で九十だよ」おじいさんの名前は佐野利一。1917(大正六)年に生まれ、16歳の時に父親がやっていたこの店に連れてこられた。以来88歳の現在まで、毎日時計と向き合ってきた。学生が卒業して、教授になて戻ってきて、退職して、名誉教授ににあり、ここに来て『おじさん、まだやってんのかい』って」
 
・ゼンマイ時計からクォーツ時計になって、仕事が激減したという。こんな小さな電池で一年から二年もつんだもん。修理する必要ないのよ。ほんと、やめようかと思って。もう欲なんかない、ほんと、楽に死ねりゃいつでもいいと思って」
 
72年間、佐野さんはここにいたことになる。4年前に奥さんが亡くなって一人暮らし。「食うもんが決まっちゃってんね、おかずなんか、もう、時間かかるものはダメ。あの、お湯入れればみそ汁になるものがあるんですよ。それと、おかずはその辺で買い集めて、食べるものはもう決まっちゃうね。家でひとり、職場でもひとり、友達、いません。友だちとお喋りしてちゃ、仕事にならなかったのよ。だから生活がね、全然、面白くないんだ。タバコ吸わないし、酒も飲まない。テレビも観ない。なんにもない
 
喜びも悲しみも悩みもない。おまけに話し相手もいない。そのことをべつに淋しいとも感じていない。それは長い間この小さな空間で過ごしたことによるものなのか、それとも、歳をとるとはそういうものなのだろうか。
 
そういえば背伸びが私の人生なのかもしれない。いつも格好つけて無理しているような気もする。よほど天賦の才能がないかぎり、みんな少なからず背伸びをして生きているのではないだろうか。
 
「プレゼント(キックボクサー山木剣士郎の介護)」「ひとりの男だけを」「殺意の階段」「不倫のメリット」「『コーラスライン』はここに」「リボンと帽子」「親の見合い」「藁をもつかむ(江原啓之好きの英会話講師)」「晦日の夜と元日の朝」「つらいもまた良し」「マンガ家・柏木ハルコ「いぬ」」「落選者」「たったひとつの椅子をめざして(武村正義)」「べらふぉんてと叔母さん」「日曜日はいつも」など。

 

いいなあ。平凡な人生なんてないんだよね。それぞれに小説になるくらいのドラマがある。全作品読もう!オススメです。(・∀・)