上原隆さん、いいなあ。癒やされるなあ。このジャンル、なかなか書く人いなかったもんね。何気ない文章の中にキラリ、光るものがある。まさに「人生いろいろ」だね。(・∀・)
「“不倫のメリット”に悩む女性、介護地獄に向き合う元キックボクサー、レズのシャンソン歌手…ふと涙のでるコラム・ノンフィクション」その中でも最も響いた章を紹介しよう。
【東大の時計屋】
・東京大学の安田講堂の地下に時計屋があって、 戦前からずっと同じ店主が続けているときいてやってきた。「 もう、やめようかと思って、だって、あと二年で九十だよ」 おじいさんの名前は佐野利一。1917(大正六)年に生まれ、 16歳の時に父親がやっていたこの店に連れてこられた。 以来88歳の現在まで、毎日時計と向き合ってきた。「 学生が卒業して、教授になて戻ってきて、退職して、 名誉教授ににあり、ここに来て『おじさん、まだやってんのかい』 って」
・ゼンマイ時計からクォーツ時計になって、 仕事が激減したという。「 こんな小さな電池で一年から二年もつんだもん。 修理する必要ないのよ。ほんと、やめようかと思って。 もう欲なんかない、ほんと、楽に死ねりゃいつでもいいと思って」
72年間、佐野さんはここにいたことになる。 4年前に奥さんが亡くなって一人暮らし。「 食うもんが決まっちゃってんね、おかずなんか、もう、 時間かかるものはダメ。あの、 お湯入れればみそ汁になるものがあるんですよ。それと、 おかずはその辺で買い集めて、食べるものはもう決まっちゃうね。 家でひとり、職場でもひとり、友達、いません。 友だちとお喋りしてちゃ、仕事にならなかったのよ。 だから生活がね、全然、面白くないんだ。タバコ吸わないし、 酒も飲まない。テレビも観ない。なんにもない」
喜びも悲しみも悩みもない。おまけに話し相手もいない。 そのことをべつに淋しいとも感じていない。 それは長い間この小さな空間で過ごしたことによるものなのか、 それとも、歳をとるとはそういうものなのだろうか。
・そういえば背伸びが私の人生なのかもしれない。 いつも格好つけて無理しているような気もする。 よほど天賦の才能がないかぎり、 みんな少なからず背伸びをして生きているのではないだろうか。
「プレゼント(キックボクサー山木剣士郎の介護)」「 ひとりの男だけを」「殺意の階段」「不倫のメリット」「『 コーラスライン』はここに」「リボンと帽子」「親の見合い」「 藁をもつかむ(江原啓之好きの英会話講師)」「 大晦日の夜と元日の朝」「つらいもまた良し」「マンガ家・ 柏木ハルコ「いぬ」」「落選者」「 たったひとつの椅子をめざして(武村正義)」「 べらふぉんてと叔母さん」「日曜日はいつも」など。
いいなあ。平凡な人生なんてないんだよね。それぞれに小説になるくらいのドラマがある。全作品読もう!オススメです。(・∀・)