大学を退職したツチヤ教授は神戸に? 「夏の総決算」「風邪の影響」「走った日」など混迷深まるエッセイ集。 そのエッセンスを紹介しよう。
・本書は週刊文春の連載コラムをまとめた文庫オリジナルである。 こう言うと、連載をまとめることに疑問を呈し、「 お前の原稿なんか、まとめてどうする。まとめたら、 あとは捨てるぐらいしかすることがない」 と考える人もいるだろう。だが、こう考えるのは間違っている。 私の原稿は捨てる以外にも、燃やす、電車に置き忘れる、煮る、 炒める、三枚におろす、酢でしめる、発酵させる、食べ残すなど、 多数の可能性がある。
・文章というものはどこまで直しても改良の余地があるものだ。 直し方によっては改良の余地が増えることもある。直した結果、 改良になっているのか改悪になっていうのかさえよく分からないの だから難しい。
・わたしの場合は「売れたから出す」という世俗的打算を排し、「 売れないから出す」という高尚な方針なのだ。 低俗な人には分かりづらいかもしれないが(わたしもその一人だ) 、ちょうど、おみくじを引いたら凶が出たので、 吉が出るまで何度も引き直すのに近い。
・「ライオンを見よ。ことばを知らなくても、 あんなに堂々としているではないか。雲を見よ。 ことばを一つも知らないで、あんなに悠々としているではないか。 たしかにわたしは堂々と悠々もしていないが、ネズミを見よ。 アリを見よ。 堂々とも悠々ともしていないが立派に生きているではないか。 わたしを見よ。 立派にではないが恥をしのびながら生きているではないか」
・ わたしはなぜ一分一秒でも早くニュースを知りたがるのだろうか。 早く知っても、わたしにできるのは一喜一憂することぐらいだ。 寿命が限られているから早く知りたいのかもしれないが、 余命あと半年と言われたら、 野球の結果や政治の動きなどどうでもよくなるのではないかと思う 。
【究極の慰め方】
・【女なんて掃いて捨てるほどいるよ】
→ こういう慰め方をする男はたいてい、 最初に掃き捨てられそうな男だ。さらに、 海の中にはイワシやサンマが掃いて捨てるほど泳いでいるが、 一尾として捕まえることができない。 一人も女をつかまえることができなければ、 女がいくら多くても関係がない。 数が多ければ多いほどミジメになるだけではないか。
・【女は見る目がない。お前の価値がなくなったわけではない】
→ 女に見る目がないことは最初から分かっている。 美女は例外なくロクでもない男を選んでいるのだから。 もし女に男を見る目があったら、もっと見込みがなかっただろう。
・【そうか、飲もう】
→ 飲む口実を探している者はひいきの野球チームが勝っても負けても 飲む理由にする。フラれたのを飲むきっかけにしているだけだ。
・「 だれからも必要とされない無用なわたしに生きる価値があるでしょ うか」
「無用であろうか? ライオンから見ればお前は脂ののった食べ物である。 蚊にとっては新鮮な血液の倉庫である。 医者や食堂や商人や詐欺師にとってはメシのタネである。 かりに一切の価値がないとせよ。空を見よ。 この名もなき雑草を見よ。有用なのか。価値があるのか。「価値」 というのは他から見た評価にすぎない。 存在していること自体が立派ではないか。わたしを見よ。 老人は無価値どころか、 社会にとっても家庭にとても邪魔者である」
いや〜いいなー!この切り返し!このボキャブラリー、この発想力っ!土屋センセイ、サイコー!オススメですっ!