手塚治虫も藤子不二雄も赤塚不二夫も、伝説の「トキワ荘」から歴史がスタートしてのはよく知られているよね。そこで度々登場するのが、これまた伝説の「漫画少年」の加藤謙一氏。
・太平洋戦争が終わって間もない頃、「漫画少年」 という雑誌があった。 1948年1月号の創刊から55年10月号で廃刊になるまでの、 8年という短命の雑誌だったが、 ここから手塚治虫をはじめ寺田ヒロオ、藤子不二雄、赤塚不二夫、 石ノ森章太郎、永田竹丸、 松本零士など戦後を代表する漫画家たちが生まれ育っていった。
「漫画少年」は、戦前の講談社で長く「少年倶楽部」 の編集長をつとめた父・加藤謙一が、戦後、 自宅を発行所として家族と共に細々と始めた雑誌である。 謙一は若い頃、郷里の弘前市で小学校で教師をしていたが、 全国の子供達に喜ばれる雑誌を作りたい一心で上京し、 苦労の末に念願叶って「少年倶楽部」や「講談社の絵本」さらに「 野球少年」「漫画少年」などの編集にたずさわることができた。
彼は編集長として多くの作家や画家、漫画家を育てたが、 彼が心血をそそいだ「少年倶楽部」は戦前・ 戦後は通じてこれほど子どもの人格形成に影響を与えた雑誌はない だろうと言われているし、彼とその家族が力を合わせて作った「 漫画少年」は戦後の漫画ブームの原点と言われている。 この物語は「漫画少年」の誕生から始まった、戦前の「 少年倶楽部」にさかのぼり、息子から見た「親父の背中」 を描いていこうというものだが、筆者である私は八人の子ども( 長男は夭折)の六番目。「漫画少年」 が産声を上げたときは小学三年生だった。
・1947年の初秋、ある日曜日の午後、 謙一は家族たちに自分の書斎に集まるように声をかけた。 集まったのは妻の昌をはじめ19歳の長女・ 美紗子以下七人の子どもたち。同居している謙一の妹・ 絹も昌の隣に座る。
「今度、 わが家では学童社という会社を興して少年雑誌を発行することにな った。残念ながら私は公職追放になる身だから、 社長はお母さんになってもらう。雑誌の名前は『漫画少年』 と決めた。経理などは親戚の人に手伝ってもらうつもりだが、『 漫画少年』を作るのは、ここに集まった家族全員だ。 皆で力を合わせてどうしても成功させなくていかん。 よろしく頼むよ」
・「いまの日本の大人は落第である。 日本を世界の文化国にすることを、 この大人んに期待することは既に無理である。 頼みはただ子供だけ。この子供が大人になる頃、 それまでの育ち方さえ良ければ、 日本もようやく世界の文化国の仲間入りができるであろう。 子供の指導こそ日本の運命を決定する。 子供を大切にしなければならん。 子供のためにのに真っ向真剣に考える良心的な出版社が生まれなけ ればならぬ」
・謙一が特に力を入れたのは、連載小説、口絵と挿絵、大型付録、 漫画、それに読者との交流記事の五つだ。
・美紗子「父は編集者としては優れていたと思いますが、 経営者としては落第でした。社長に就任してから、 知人に実印を預けて大金をだまし取られたり、 返本が知らぬ間に横流しされて大損害を被ったりという出来事が いくつもありました。 社員の数も頼まれると断れないものだからどんどん増えて一番多い 時には十人になったのですが、『漫画少年』 一本の出版社としては多すぎました。 もし学童社が経営に人を得て、 父が編集だけに集中することができたら、 厳しい競争の中でも新しい境地が開けていたのではないかという気 がしますし、その点は残念でなりません」
・謙一が亡くなった日、報せを聞いて駆けつけた手塚は、 謙一の遺体にすがって号泣した。「加藤先生! 何のご恩返しもできないまま、ご無沙汰ばかりしてしまいました。 お目にかかってお礼も申し上げることもできず、 申し訳ありません!」 加藤家の遺族にとっては忘れることのできない感動的な後継だった 。「逢いたかった。逢いたかった。 お元気なうちにもう一度お逢いして、ありがとうございました、 とお礼を言いたかったのに……」それだけ言うと、 手塚はひざの上にのせた握りこぶしの上に、 はらはらと涙を落としました。
・2000年から始まったNHKテレビの人気番組「 そのとき歴史は動いた」の中で、視聴者を対象に「 日本の歴史を大きく動かした人物はいったい誰か」 というアンケート調査が行われた。一位・織田信長、二位・ 坂本龍馬、三位・徳川家康、四位・ 聖徳太子などが上位に並んだが、 十五位にはなんと手塚治虫が入っている。彼の下位には吉田茂、 福沢諭吉、卑弥呼、 空海などがいるのだから改めて手塚が残したモノを評価する人が多 いことに驚いてしまう。出会ったその日に、 手塚の才能を見抜いた謙一の編集者としてのセンスはなかなかのも のだったが、その後の謙一の予想を大きく超えて、 世界中の人たちに夢と感動を与える存在となっていった。
「吉川英治「神州天馬侠」」「高垣眸「龍神丸」「豹(ジャガー) の眼」」「佐藤紅緑「あゝ玉杯に花うけて」」は、読んでみたいなあ!あの頃の少年の気持を体感してみたい。漫画ファン必読だね。オススメです。(・∀・)