この本を読んで、写真を観て、懐かしくて胸が締めつけられるようになってしまった。これぞ!昭和の国鉄時代の鉄道!だった。2005年11月10日発行なので、もうすでに米原駅の「洗面所」や岡山駅の「赤帽」もなくなってしまったようだ……光陰矢のごとし。
本書では、全国に残っている国鉄時代からの施設・設備で、今でも使用、または大切に残されているものを「鉄道遺産」と銘打って取り上げている。メインにモノクロ写真、サブにカラー写真を使用して、タイムスリップ感、または旅自体の変遷を考えさせる構成にしており、現地取材をしてドキュメントタッチで紹介。そのエッセンスを取り上げよう。
「開く窓 風を受けて走る爽快感」
今では地方を走るローカル線においても、 ほとんどの列車が冷房を装備している。そのため、 冷房を持たない列車は、ある意味「特別な列車」 といえるかもしれない。窓をいっぱいに開けて、 自然の風を存分に感じながら旅を楽しむことができるのだ。 それは今や貴重なことになってしまった。
鉄道開業以来、列車の窓は開くのが当たり前だった。 まだ蒸気機関車が活躍していた時代には、機関車の吐き出す煤( すす)が窓から入り、乗客を苦しめたという。 列車がトンネルに入るときに、 一斉に窓を閉めるのも日常風景だった。 そのため主要駅のホームには、煤で汚れた乗客が、 顔や手を洗うための洗面所が設けられたほどだ。
しかし開け放たれた窓から入ってくるものは、 煤のように乗客を苦しめるものばかりではなかった。 沿線の様々な匂いや波の音が。 山間を走る列車では森の匂いやトンネルの湿った匂い、 そして蝉時雨の音。人間の記憶と深く結び付く匂いや音は、 鉄道で旅した思い出として、 旅人の心に深く浸みこんだに違いない。
今みたいな缶ジュースが当たり前でなかった時代の話。当時、 缶と言えばサバ缶のようなカンヅメのこと。 ジュースや牛乳の値段に10円の預り金が含まれていた。 かつて駅の売店にはジュースや牛乳、 ビールなどビン飲料がズラリと並んでいた。 6本入りの紙ケースでビンを手に提げる乗客、 ホームでの立ち売り、車内販売…… ビールやジュースがぶつかりあって音をたてる。「シュポッ!」 と小気味よく次々にフタが開く。必要不可欠となる栓抜きは、 実に列車の座席に備わっていた。
また、人々の出会いや別れが演じられてきたのも、 列車の窓越しではなかったか。窓が開かない現代では、 ホームと車内で携帯電話を使った見送り風景をよく見かけるが、 なんとなく味気ない。 そういえばかつては駅弁も窓越しに買ったものだ。
「赤帽 駅のポーター」「木造駅舎」「食堂車」「駅弁の立ち売り 箱を提げて弁当を売り歩く」「硬券切符 乗車券が人と人を結ぶ」「ビュフェ 立食スタイルの走るレストラン」「オルゴール 車内放送が奏でるやさしい音色」「0系新幹線 みんなが憧れた夢の超特急」「パノラマカー 夢を乗せて走る前面展望電車」「ナローゲージ 平成に残る軽便鉄道」「夜行急行 ふるさとの香りも運んだ」「客車列車 鉄道の原点ここにあり」「大井川鐵道 SLの動体保存を行う私鉄」「鉄道林 自然災害から線路を守る」「省線電車 70歳の現役電車に乗る」「ボンネット車両 特急列車の格調高きスタイル」「ランプ小屋 油灯時代の忘れ形見」「廃線遺構 人々が守り、語り継ぐ」など。
あれっ!?栓抜きって、まだ残っていない?懐かしいなあ!鉄道遺産を探しに旅に出たいわっ!オススメです。(・∀・)