「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「島田清次郎 誰にも愛されなかった男」(風野春樹)

 


島田清次郎 誰にも愛されなかった男


先日、このブログで紹介した大正時代のベストセラー作家、「天才」島田清次郎。文学青年(?)のワタシも知らなかった〜!(・o・)!


「天才と狂人の間 島田清次郎の生涯」(杉森久英
http://d.hatena.ne.jp/lp6ac4/20180224


この本は、島清をさらに掘り下げた評伝である。タイトルが実に虚しい……。(・_・;)


天才か、狂人か。ベストセラー作家から地に堕ちた男。その狂気に迫る傑作評伝──。大正時代を流星の如く駆け抜けた作家、島清こと島田清次郎。わずか二十歳で上梓したデビュー作『地上』が空前の大ベストセラーとなり、有名批評家もこぞって絶賛。一躍文学青年たちのカリスマとなっていく。アメリカ、ヨーロッパを外遊し、アメリカではクーリッジ大統領、イギリスではH.G.ウェルズとも面会。しかし、「精神界の帝王」「人類の征服者」と自称するなど傲岸不遜な言動は文壇で嫌われ、おまけに海軍少将令嬢を誘拐監禁したというスキャンダルによって人気は一気に急落。出版社からも作品を受け取ってもらえなくなり、吉野作造菊池寛らの家に押しかけて居座るなど、たびたび問題を起こすようになる。やがて放浪の果て、清次郎は巣鴨町庚申塚にある私立精神病院「保養院」に収容された。このとき満二十五歳。天才と呼ばれた青年作家は、精神病院の患者となった──。忘れられた作家・島田清次郎は、本当に天才だったのだろうか。そして本当に狂人だったのだろうか。その答えを知るために、生い立ちから絶頂期、精神病院入院後の生活までを、現役精神科医が丁寧にたどり直す新たな人物伝。将来への野心と不安の間で揺れる等身大の青年がここにいる」そのエッセンスを紹介しよう。


要するに彼は、誰にも愛されない男だつた。そして常にその愛に飢えてゐた。ー加能作次郎島田清次郎君のこと」


島田清次郎と言っても、現在ではその名前を知る人は少ないだろう。作品も入手は難しく、すっかり忘れ去られた作家になっている。しかし、大正時代の当時は知らないものはないほどの人気作家だった


・早熟で並外れた才能を発揮するが、奇矯な振舞いも多く、最後には発狂して悲劇的な末路を遂げる。島田清次郎は確かに世間の期待する「天才」の要素を兼ね備えている。「天才」から「狂人」への転落というスキャンダラスな物語は、私たちの好奇心に大いに訴えかけるものがる。鼻持ちならない天才児の悲惨な末路に、私たち凡人は心の中で安心感を覚える。


・しかし、実際に彼と接していた知人の清次郎評は、そうしたイメージとはだいぶ異なっている。「強がりの癖に、気の弱いものであつた」と言う。「要するに彼は、誰にも愛されない男だつた。そして常にその愛に飢えてゐた」。親しい者の目に映る清次郎は、「天才」というきらびやかな称号とはかけ離れたものだ。デビュー前に書かれた「自分への説法」と第された長い詩には、清次郎自身の「天才」でありたいという強い意志と「狂人」になることへの強い不安が表現されている


島田清次郎は、本当に天才だったのだろうか。そして本当に狂人だったのだろうか。その答えを知るためには、清次郎の生涯をたどりなおしてみる必要がある。そろそろ「天才と狂人」という言葉の呪縛から、清次郎を解放してあげてもいいのではないだろうか。


・「要するに彼は、誰にも愛されない男だつた。そして常にその愛に飢えてゐた。だから相手が男であらうが女性であらうが、少しでも友愛的な暖い好意を以て彼を迎へてやると、彼は非常に嬉しがつて、貪るやうに執くそれに取り縋って来るのが常だつた。元来が彼は、極く気の小さい、何れかといへば無邪気な好人物だつたやうに思ふ。人前では如何にも横柄で、傲慢不遜な態度を見せていゐたが、その実は、支持者を持たぬ孤独者に有り勝ちな一種の虚勢に過ぎなくて、こちらが高飛車に強く頭からどやしつけると、すぐ弱々しく負け続けて了ふやうな男だった」清次郎が愛に飢えていたのは確かだろう。そして、その愛を裏切るのはいつでも清次郎の方だった。清次郎は、何度も面会や差し入れにきてくれた中山忠直や、母親の愛すらも疑い、ますます自らの孤独を深めていった。清次郎は誰よりも愛を求めていながら、生涯誰も愛することができず、誰にも愛されない男だった


「永続的な成功者」「一時的成功者」の典型だけど、大正デモクラシーという時代が生んだ寵児だったんだねえ…。実に考えさせられる。オススメです。(・o・)


 


島田清次郎 誰にも愛されなかった男