私の名前は、「輝」である。「光」の「軍」である。だから、お日様とお月様が大好きなのだ。光り輝くものが大好きなのだ。
さて、この本。芥川賞作家・川上未映子さんの本は初めて読みました。久しぶりの純愛ストーリー。34歳のフリー校閲者、入江冬子と58歳の男性、三束(ミツツカ)さんとの愛の物語。そのエッセンスを紹介しよう。
・フリーランスで本の校閲の仕事をしている入江冬子、34歳。やがて独立する。テレビも見ず、音楽も聞かず、一緒に食事をしたり、電話をかけて長話をする友人もいない。一年に一度だけ、誕生日の真夜中に、散歩に出ることが楽しみ。そんな楽しみなんてきっと誰にも理解されないだろうし、誰かに話したこともない。ふだん話をするような友達もいない。
・真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよ、いつか三束さんが言ったことを、わたしはこの真夜中を歩きながら思いながら思い出している。真夜中は、なぜこんなにきれいなんですか。真夜中はどうしてこんなに輝いているんですか。どうして真夜中には、光しかないのですか。
・会ってるときはね、わたしは楽しいんだよね。好きというんじゃないし、どうなりたいとかそういうのはいっさいないし。でもさ、会えば会うほど、なんかしんどくなるんだよね。会うたびに、何なんだろうなあ。しんどいんだよね。会ってるときはいいんだけどね。会ったあとだね。なんていえばいのかなあ。腐るっていうんじゃないけど、なんだか鈍くなって、硬くなってどこかが、こう、麻痺していく感じがあるんだよね。どこかが。ひとりでいるとしんどいの。自分がやってることなのに、なんか悲しくなるんだよね、漠然とね、こんなはずじゃなかったのになって、そんなこと思うの。
・わたしは三束さんのことがすきだった。たぶん、はじめて会ったときからわたし三束さんのことがすきだった。そうはっきりと言葉にしてしまうと、わたしは椅子に座っていることができないくらいに苦しくなり、机に突っ伏して顔を腕のなかに入れて目をつむった。わたしは三束さんが好き。小さな声でそう言ってみた。耳がじんじんと脈打ち、手のひらが痛み、喉がはりさけてしまいそうだった。吐き気に似たようなものが胸の奥からこみあげ、わたしは目をかたくつむって、それが小さくなってくれるのを祈るような気持ちで待った。
・三束さん、わたしと寝たいと思ったことは、ありますか。はい、と三束さんが言った。わたしは暗闇のなかで顔をあげた。長い沈黙の流れたあと、あるんですか。とわたしはひとりごとのようにつぶやいた。わたしも、ずっと、としぼりだすようにしてそれだけを言ってしまうと、わたしはそのまま崩れてしまいそうになった。手をあてた喉がばらばらと音をたててばらけ、わたしは床に倒れてしまった。
ラストシーンは、なんとも切ない…。初恋を思い出しました。オススメです。(・∀・)