- 作者: 花山信勝
- 出版社/メーカー: 日本工業新聞社
- 発売日: 1982/08
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
日本の仏教学者、浄土真宗本願寺派の僧侶であり東京大学名誉教授であり、巣鴨拘置所で東條英機などのA級戦犯の処刑に立ち会った教誨師の花山信勝氏。親友から絶版となっている貴重な本を借りて読みました。これがスゴイ!生と死を改めて考えられる。
処刑を前にして、まるで悟りを開いた聖者のように穏やかな心であの世に旅立っていった戦犯たち。その中の貴重な言葉を紹介しよう。
・昭和21年の1月下旬、ある日私は京都勧学寮頭であった大原性実さんから「巣鴨の拘置所で日本の仏教の坊さんを一人送ってくれということを日本政府に対して要求しているそうだ」と。私は早速「それならば、あなたと二人で二人三脚でやりましょうか。あなたは真宗の専門学者だから真宗のお話をなさい。私は仏教一般の話をしましょう。もし英語が必要ならば、私が通訳してあげてもよろしい」これがあの巣鴨における思いがけない私の三年半の生活の始まりであったのである。
・「死は、人間の一大事である。生命は、何ものをもってもかえることのできない貴重なものであるが、その生命さえも、それに超える、それ以上の値を見出すことのできるものの前では、いさぎよく投げ出すことができるのである。その死以上のものを見出すが否かが、問題である。私は、静かにまこと、仏の前に帰命してゆくのである」
・(由利敬元中尉)「どうかわたしが死んだら、骨を太宰府の神さまに参拝させて下さい。わたしは、ここへ来るとき、そのひまがなくて、参拝できなかったのですから。二つ、この独房に移されてからは、長いあいだ、お天とうさまを、おがむことができなあったのです。どうか私が死んだら、この骨に、じゅうぶん、お天とうさまを、おがませてやって下さるように。三つ、母は私のかわりに、百までも二百までも、長生きして下さるように」
私たちは、まもなく刑場の入り口に着いた。建物の一部が仏間になっている。そこへは、案内兵も、MPも、入らなかった。スコット中尉だけが、私ら二人といっしょに、中に入った。最後は、仏前に直立して、「敬は死にません、敬は死にません。仏になるのです、仏になるのです」と合掌しながら、そう叫んだ。いままで涙を見せなかった彼は、男泣きに泣いた。
・(福原勲元大尉)死の最後の瞬間にいたるまで、一分一秒を惜しんで「仏書」を読み、「遺書」を書き、朝は太陽ののぼる前に起き、夜は電灯の消されるときまで、命ぜられた掃除やペンキ塗り作業を他人よりも早くこれを終わって、その余暇を読書し、一日一度の独房前の廊下の散歩のときも、つねに手から「仏書」を離さなかった。三度々々の食事ごとには、仏恩を感謝し、最後のときまで健康をたもち、一分でも長く勉強して、人生を全うしたいと心がけたのである。私は、彼に会うたびごとに、その心の底にひそむよろこびが、ひとりでに顔面にあらわれて、黒びかりに輝いていたことを、いまも忘れることができない。刑場に向かう途中、スコット中尉に感謝し、「大地を踏ませていただいて、ありがとうございます」と、彼はいった。その一言によって、地上に生活しながら、かつて一度として、大地の恩を感じたことのない私たち自信、深く反省させられたことであった。彼は、感謝の心にみちみちて、こおどりしながら死んでいったのである。
「勲は、仕合わせにも、この縁を境に尊いお力を、恵まれました。まことに喜び、もったいない日を最後まで送りました。勲は、この死刑の身となりながらも、喜ぶ心を、お父さんに差しあげ、なに一つお助けできない代わりとして、孝養の一端といたしたいと思います。お父さんも、よろこんで受けて下さると思います。この逆境も、この不運を、福に生かす力こそ、お念仏の力と信じます。念仏は、仏の心と力を受けて生きる道であり、仏がわれらの力となって、われを生かしてくれるのです」
・(尾家刢(おいえ・さとし)元陸軍大佐)「この度の弥陀の浄土への芽出度い往生、これまた仏恩に感謝せねばならない。余の今日あるは、宿業のいたすところである。人生の因縁事と思う。浄土に参りし後は、必ず還相(げんそう)の廻向により、再びこの世に出て来たり、衆生済度の大業にたずさわるであろう。この煩悩具足の凡夫でも、弥陀如来はこれを摂取して下さるのである。摂取の光明の中に包んで、弥陀の浄土につれて行って下さる。何と有難いことではあるまいか。これを感謝せずして、何をか感謝すべきぞや」
東條英機の
「さらばなり有為の奥山けふ超えて弥陀のみもとに行くぞうれしき」
は、実に奥が深い歌だね。幸いにも中古で入手できるね。心が現れる一冊。超オススメです。
- 作者: 花山信勝
- 出版社/メーカー: 日本工業新聞社
- 発売日: 1982/08
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る