奇跡の居酒屋ノート ~全国1200高校の卒業生と女将が紡ぐ物語
- 作者: 松永洋子(新橋・有薫酒蔵女将)編著
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2010/03/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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・そこは一種不思議な空気感につつまれている。壁面を埋め尽くすように並んだ膨大なノート、棚に間隙なく整然と並んだノートファイルの背表紙が、白地に黒の文字で統一され、それによって独特のモノトーンの空間が生み出されているためだ。東京・港区新橋一丁目のビルの地階。屋号を「新橋 有薫酒蔵」とい、九州郷土料理の店である。ノートファイル一冊一冊には高校名が記されているが、これらの「高校ノート」は、店を訪れる客によってつくられたものだ。
・場所柄、来店者の大半はサラリーマンだが、かれらは自分の出身高校のノートを設け、そこに名刺を貼ってメッセージを書き込む。ノートは壁に並べられ、やがてそれを見つけた同窓のだれかが手に取り、新たなメッセージが書き込まれる。こうして生命が吹き込まれたノートは、ふるさとを離れて暮らすサラリーマンたちによって書き継がれていく。無気質なモノトーンの装いをしたノートは、その実、人びとの思い出や郷愁の念で息づいている。
・そんなアナログの味わいがたっぷり詰まった有薫酒蔵の高校ノートは、1987年(昭和62年)に第一冊目が誕生し、その後、少しずつ増えていった。本格的に増え始めたのは、2005年ごろからで、いま現在も新たにノートを開設する人は絶えず、増え続けている。その冊数は2010年2月末現在、1262冊(2011年9月30日現在、1903冊)を超える。全国の高校の四分の一ちかくをしめる高校ノートが、この新橋の50坪の地下空間に存在しているのである。これは東京という大都市の片隅で生まれた、ささやかな奇跡といえる。
・新橋有薫酒蔵の女将、松永洋子(ひろこ)。多くのサラリーマンが去来する新橋の地に産み落とされるように誕生した高校ノートを、丹念に育て上げたのは、この女性である。彼女もまた、高校卒業後、山口県から出てきた状況組であり、店の多くの客と同様に故郷の思い出をかかえて東京暮らしを続けてきたひとりである。「奇跡のノート」は、いかにして誕生し、なぜこれほどまでに冊数を増やしていったのか?そして、そこに綴られた多様な記述の背後に広がるドラマや人間模様はどのようなものか?
・永い人生のなかでも、高校時代というのは特別なんでしょうね。たかだか三年間ですけど、ひとの一生涯のなかで、とくに大切な思い出がたくさん詰まっている特別な時間だと思います。ただ、そんな高校時代にタイムスリップするには、ちょっとしたきっかけみたいなものが必要です。それはたとえば先生のあだ名だったり、クラブ活動の思い出だったりするんですが、もっと効果的なのがじつは食べ物の記憶なんですね。
「学校の近くに、ほら、放課後にみんなでよく食べに行ったラーメン屋さんとか、お好み焼きのお店、ありませんでした?」
「そうそう!あったよ、おばちゃんがいつも大盛りにしてくれてね」「思い出した!そのラーメン屋の娘がちょっと可愛くて」
・ノートが増えていった要因のひとつは、他校にたいするいわばライバル心です。「あの高校のノートがあるのに、なんでうちの高校がないんだ」「そうだ○○高校に負けちゃいかん」そんな母校への思いからノートをつくるお客様が増えていったわけです。
・ノート設置時の三つの決まりごと
1 ノートを作り終える迄は、お酒を飲まないこと。一ページ目は母校の顔であり、お手本でもあって、第一号としての責任もあるからです。
2 必ず名刺を貼り、正確な卒業した年を書くこと。そして在学した三年間の特筆すべきことや、先生のこと、部活のこと、ラーメン屋やパン屋などのこと、いろいろなことをあれこれ思い出して沢山書いて下さい。
3 せっかく書いたノートなので、同窓生の人達に一人でも多く書いてもらう方法を考えること。いつまでも一人きりのノートではとても寂しいものです。
中でも、心を打ったのは、
「現在、会社が大ピンチです。起死回生の新規案件に取り組んでいます。これがうまくいかなければ、二度と有薫では飲めないかもしれません」と書いていたメッセージをたまたま見かけた先輩が、「何かお役にたてることがあるかもしれません。その折は、ぜひ下記へご連絡を!」後日この先輩を訪ね、やがて自力で打開策を見出すエピソードだ。こんな繋がりがあるんだね。
その他、「早すぎる級友の死と偲ぶ会」、「捨てた故郷と贖罪の手紙」、「停学三回、忘れえぬ恩師へ」、「甲子園友情応援の交友は半世紀に及ぶ」などは、涙なしには読めない…。(T_T)オススメ!
私の母校、神奈川県立西湘高等学校のノートもあるようだ。西湘OBよ!一緒に行かない?(^^♪
有薫酒蔵 新橋店 (ゆうくんさかぐら)
港区新橋1-16-4 りそな新橋ビルB1