「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

BOOK〜『あの一瞬 アスリートはなぜ奇跡を起こすのか』(門田隆将)

あの一瞬―アスリートはなぜ「奇跡」を起こすのか

あの一瞬―アスリートはなぜ「奇跡」を起こすのか

最近、注目しているノンフィクションライターの門田隆将氏。この本はNHKでドラマになり傑作でした。(^。^)


BOOK〜伝説の打撃コーチ・高畠導宏の生涯…『甲子園への遺言』(門田隆将)
http://d.hatena.ne.jp/lp6ac4/20080511


アスリートは、なぜ奇跡を起こすのだろうか。私たちはなぜスポーツを観るのだろうか。そして彼らを観て私たちはなぜ感動を覚えるのだろうか。平々凡々と暮らす私たち一般の人間と、「勝負の世界」に生きるアスリートたち−私は彼らの執念、言い換えれば、アスリートたちの「情念」にその秘密があるのではないかと思っている。本書は、アスリートたちの勝敗を分けた「一瞬」にスポットライトをあてた闘いの記録であると同時に、彼らの内面、すなわち心の軌跡と葛藤を追った物語でもある。私たちはなぜスポーツに魅了されるのか。その答えは本書の中にある。
サッカー、ボクシング、柔道、野球、マラソンラグビーソフトボールなど、十種類の競技の「あの一瞬」を描いた壮絶なノンフィクション。
その中で最もインパクトがあったのが、高校野球史に残る、松井秀喜五連続敬遠事件。そのエッセンスを紹介しよう。


【全力で「分力」を叩く 明徳義塾ナインが「松井五敬遠」で見た風景】


監督の馬淵は、この試合の勝敗は、松井と勝負せざるを得ないところに追い込まれるかどうかにかかっている、と考えた。松井は歩かせ、あとの五番、六番を完全に抑え込む。「いいか。松井とは勝負しないぞ。すべて敬遠する。スタンドが騒ぐだろうから、それも頭に入れて試合をしろ。松井を除けば絶対お前らが上だ。勝てる。勝たないといけない。勝つんだ!」ミーティングで、ナインに向かって馬淵はそう檄を飛ばした。
「はいっ!」この人についていけば全国制覇できる。そう信じて疑わない明徳ナインは、暗示にかかったように「俺たちは星稜に勝てる」と思った。


・ブーイングが球場全体を覆う。異様な空気がグラウンドに渦巻き始めた。「勝負せんかあ!」「坂本龍馬が泣いとるぞ!こら!」「いい加減にせえ!」凄まじい罵声が浴びせられた。試合中断。高校野球史上、前代未聞の事態だった。罵声、興奮、喧騒、悲鳴…甲子園のグラウンドは、「異様な空気」に支配されていた。しかし、明徳ナインは、この時、誰も動揺していない。とくかく勝つ、その一点に集中していた。


「観客の声や雰囲気は全く気になりませんでした。五万人の観客よりも馬渕監督一人の方がよほど怖いですよ。とにかく勝つことだけに集中していますから、何も気になりません。こっちは全国制覇を目指して血ヘドを吐くような練習をやってきた。ピッチャーとして僕に力がなかったから松井とは勝負できなかったが。試合は絶対に負けない。そういう気持ちでした。」最後まで明徳のマウンドを死守した河野はそう語る。


だが、五連続敬遠に対する非難の凄まじさは、馬淵の予想を遙かに超えていた。試合中にベンチの後ろからビールをぶっかけてきた観客もいたし、その後、宿泊していた旅館には放火予告など嫌がらせが殺到した。「これで自殺しろ」と、カミソリ入りの封筒も送られてきた。家族からの電話を装われ、旅館の受話器をとると、ドスのきいた声で、「お前、死ね!」と脅されたこともあった。試合後三日間、明徳ナインは旅館の外に出ることは許されなかった。いや、危なくて出ることができなかったのである。


「一生の中で、あれほど、勝ちに向かって勝ったことはない。おそらくこれからもないでしょう。監督が広島工業に負けて甲子園を去る夜の最後のミーティングで、“お前ら、ようやってくれた。ようあそこまで(練習に)ついてきてくれた”と言ったきり涙で何も言えなくなったんです。あの時はみんながワンワン泣きました。監督が俺たちを褒めてくれたのはあの時が初めてでした。あれほど、涙が出たことはないし、これからもないと思う。時間が経って、あの敬遠が本当に理解できます。あの作戦は当然です。僕にとって、あの五敬遠は自分の野球人生の中で通過点ですが、十八歳の時のいい思い出です」そう語ってくれたのは、ピッチャーの河野である。


馬淵はいう。「今も、あの作戦は正しかったと思うし、同じことがあれば、またやりますよ。河野は敬遠でいくしかなかった。私は、たとえ力が劣っていても、そして、たとえ素材が二流でも鍛えに鍛えれば強いチームにも勝てるようになる、それが高校野球だと思っています。」


すごいなあ…、そんな風に思っていたなんて…。その他、冒頭の最強のランナー瀬古利彦のロス五輪惨敗のエピソードは初耳だった…。そんなことがあったなんて。いいなあスポーツって。オススメです。(^。^)