- 作者: 阿刀田高
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/01
- メディア: 単行本
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しかし、アリとキリギリスの話は、本物のイソップ物語では、実はキリギリスではなくて蝉なのだ。イソップ物語の話がよく知られているのは、ラ・フォンテーヌ(1621〜95)の「寓話集」でイソップの物語をフランス語の詩に変えたのだ。なぜ蝉がキリギリスになったかというと…本を読んでね。
実は、本当のイソップとはこんな人物だった!そしてイソップ物語130余話はこんな中身だった!そのエッセンスを紹介しよう。
・遠い時代、日本語に翻訳されたイソップ物語には、<イソポのハブラス>と古活字本<伊會保物語>の二種類があって、微妙に異なっている。このエッセイで扱うイソップのストーリーは、淵源を古代ギリシャに持ち、ヨーロッパのキリスト教社会で変容しさらに安土桃山時代の日本で語られたものである。
・イソップはBC6世紀くらいのギリシャ人。しかしイソップの一生について残されている史料は限られているし、生涯自体がフィクションと考えた方が適切な部分が多い。いろんな人が創ったり、つけ加えたりしたものが、イソップの名で集められてイソップ物語になった。
・ある時、イソップの主人に伴って旅をすることとなり、主人がイソップに、「お前はまだ慣れておらんから軽い荷物でいいぞ」と労わってくれたが、イソップは荷物を見まわし、一番大きな荷物を…食料をたっぷり入れた重くて大きいのを選んだ。なにしろ中身は食糧だから一夕ごとに軽くなる。最後は荷そのものがなくなって、イソップは道中を踊ったり跳ねたりして楽しんだ。「あいつ、馬鹿じゃないな」主人も奴隷仲間も一目置くようになった。
・哲学者のシャントが、「市場へ行って、一番重宝なものを買って来い」と言えば、獣の舌を買ってくる。「なんだ、これ。どこが重宝なんだ?」「はい。天下の善悪は舌先次第。国家の安否も舌に委ねられている。これほど重宝なものはほかにあるまい」
「そうか。じゃあ、一番悪いものを買って来い」すると、今度も舌。「なぜだ?」「昔より“舌は禍のもとなり”と言うわね。これほど悪いものは滅多にありますまい」
・「おい、イソップ、町の風呂屋へ行って混んでるかどうか見て来い」大衆浴場は古代ギリシャでも小規模ながら実在していた。「はい」と出かけて行ったが、風呂屋の前に尖った石が転がっていてイソップは蹴つまづいてしまう。ほかの人もつまづくが、「くそっ」とか「ちぇっ」とか罵るだけで風呂へと急ぐ。そのうちに男が一人現われ、石を抱えて「よいしょ」ドーンと取り捨てた。「なーるほど」イソップはとって返して、「風呂屋には一人っきりです」「おお、そうか。今のうちだな」
しゃんとが行ってみると、中はいっぱいで足を踏み入れるすきまも乏しい。「イソップ、なんで嘘を言った?」「へえ、風呂屋の入口に尖った石があって、みんなつまずいてけがをしてました。でも取り除いたのは、たった一人。人間らしい人間はたった一人でしたな」
・ある男が鶏を飼っていたが、この鶏が毎日一つずつ金の卵生む、大喜びのあげく、―一日にたった一つか。二つとか、三つとか、たて続けに産めばいいのに― 鶏を叩いてみたが、どう叩いても一つより多くは生もうとしない。そのうちに、―こいつの腹の中、どうなっているんだ。金だらけじゃないのか― と考えて鶏の腹を裂き、殺して頭のてっぺんから足の爪先まで確かめてみたが、金などどこにもない。そのとき、しみじみ後悔して、―もとのままにしておけばよかった―
このように、人が欲心に耽けるときは、この男が鶏の腹を裂いたの異ならない。毎日少しずつ儲けていれば、それで身過ぎ世過ぎのなるものを一気に儲けようとして飽きたらず、ついには大切な宝を失って身を滅ぼすこととなる。
なんか、イソップって、一休さんのようなソクラテスのような知恵者だったんだね。そして何といっても「例え話の達人」!動物を使った比喩は今読んでも腑に落ちる。この本自体はそれほど厚い本じゃないけれど、じっくり読んだら10日くらいかかっちゃいました。子供の頃の話も今改めて読んでみると解釈の幅が広くなっていいよね。阿刀田さんのこの本もおススメだよ!(^o^)丿
BOOK〜毒か薬か?…『ブラック・ジョーク大全』(阿刀田高)