「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

BOOK〜屠殺場の仕事とは?…『牛を屠る』(佐川光晴)

牛を屠る (シリーズ向う岸からの世界史)

牛を屠る (シリーズ向う岸からの世界史)

  • 作者:佐川 光晴
  • 発売日: 2009/07/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
あっという間に三月だね!今年もあとわずか10カ月になってしまいました…。(^◇^)春になると自分の季節がやってきたカンジがするね〜!

さて、またまたスゴイ本を読んじゃいました!未知の世界を教えていただいたカンジかな「屠る」を、「ほふる」 と読むと初めて知りました…。(・。・)


著者は、東京出身、北海道大学の法学部を卒業して、とあるきっかけで大宮食肉中央卸売市場・大宮市営と畜場に勤める。そこは牛や豚を屠殺し食肉を製造する会社だった…。「ここはおめえみたいなヤツの来るところじゃねえ」と言われながら、牛や豚を相手に働き続けた屠場での10年あまりの日々を綴る。あまりに生々しい描写は省略するとして、そのエッセンスを紹介しよう。


牛の解体作業について簡単に説明しておこう。繋留(けいりゅう)場から一頭ずつ引かれてきた牛はノッキング・ペンと呼ばれる、前後左右でぶ厚い鉄板で囲まれた場所に入れられる。豚は電気ショックで悶絶させるが、牛は銃で眉間を撃ち抜く。銃に込める弾には圧縮ガスが充填されている。その弾が破裂した勢いで銃口から鋼鉄製の芯棒が飛び出し、牛の頭蓋骨に直径一センチほどの穴を開ける。衝撃で、牛は四肢を折って倒れる。


・私は相当な汗かきで、仕事中はいつも大汗をかいていた。解体されていく牛のからだから放出される大量の熱と床に撒かれる水による湿気とで作業場は猛烈に蒸し暑く、真冬でも扇風機が回された。朝八時半から始めて、十時十五分の休憩のときには全身びしょ濡れになり、作業着を替えないことにはとても働けない。もっとも私の場合、汗が出るのは調子のいい証拠でもあって、汗が渇れるのと同時に体力も尽きた。


・汗と一緒に脂も抜けて、仕事のあとは、真夏にクーラーのない部屋に寝転んでも暑さを感じない。この変化に気づいたときは、人間のからだとはここまで環境に適応するものなのかと驚いた、なによりありがたいのは、「終わりじまい」で帰れることでそれと引き替えならば多少危険な仕事でもかまわないと、作業課の誰もが思っているようだった。後に午後二時まで休憩室に留め置かれるようになったが、正社員の扱いでこれほど勤務時間が短い時間はほかにないだろう。浦和競馬、川口オート、大宮競輪、戸田競艇とギャンブル好きにはたまらない立地だし、内臓屋でモツの掃除を手伝ったり、仲買人の配達を引き受けたりと、所帯持ちはアルバイトに励んでいた。『とっとと終わらせて、帰るべえよ』そのために全力で働いた。


・百五十頭の牛と、五百頭を超える豚を三十六、七人であげるのは並大抵の技ではない、とくに豚の内臓は「足が早い」ために、午前中で解体を済ませないと販売に支障が出るし、セリに間に合わない。仕事のあいだは気が張っていても、家に帰れば疲れが押し寄せる、腕が痙攣を起こして、晩ご飯を食べながら箸を落としたり、お茶わんを持つ手が震えて味噌汁をこぼす。筋肉が火照って、背中から腰まで一面に湿布を貼らないと寝付けない。腰のコルセットは必需品だし、椎間板ヘルニアや腱鞘炎を患う人も多かった。それに疲れが溜まってくれば、どうしたってケガが増える。


・私が知っているだけでも、十年間で五人の若手作業員が、ここで働いては結婚ができないからとの理由で退社していった。その一方で作業課に勤務しながら結婚したものも複数いる。


芝浦屠場は、日本最大の食肉センターである。一日に牛は350頭、豚は1200頭を屠畜解体する。作業員は全員が東京都の職員、つまりは公務員である。身分は安定しているし、退職金は大宮食肉とは一桁違う。豚だけではなく、牛を寝かせての解体などとっくの昔にしなくなっている。大宮の仲間内で、やっかみ半分の口調で語られる芝浦屠場の様子はなんとも羨ましいものだった。


・「死」とは「冷たい」とうイメージが付きまとう、しかし、牛も豚もどこまでも熱い生き物である。ことに屠殺されていく牛と豚は、生きているときの温かさとは桁違いの「熱さ」を放出する。喉を裂いたときに流れ出る血液は火傷をするのではないかと思わせるほど熱い。真冬でも、十頭も牛を吊るせば、放出される熱で作業場は温まってくる。切り取られ、床に放り投げられたオッパイからは、いつまでたっても温かい乳がにじみ出る。


・屠殺場とは、日々搬入されてくる牛や豚を解体する場所である、そこで働くわれわれに求められるのは、体調を整えて過酷な労働に耐えること、先輩から受け継いだ技術を後輩へ伝えていくことである。具体的には、手を抜かずにナイフを研いで、大怪我をすることなく解体作業を行ない、家に帰ったあとは明日に備えて早くに眠る。ナイフの切れ味が全てであり、切れ味を保つためにいかにしてヤスリをかけるかの一点に心血が注がれた。そうは言っても、毎日百頭を超える牛を枝肉に変えていく作業は、独特の負担を心身に与えて、気持ちが弱ったときは無残な想像を呼び起こした。


特に、後半の「牛との別れ」「O-157の衝撃」は、感慨深いなあ…。著者はこの仕事に誇りと自信を持っていた、愛していたのだ。職業に貴賎はないよね。(・。・) こっちの本も合わせて読みたいね。おススメ!


BOOK〜みんなで考えよう!…『いのちの食べかた』(森達也
http://d.hatena.ne.jp/lp6ac4/20090413