『海賊』 マジョリー・ワレー
ある日、スミス夫人が病院の待合室で順番を待っていると、小さな男の子とその母親が入ってきた。男の子は片方の目に眼帯をしている。
少年は片目を失ったことなどまったく気にしていない様子なのだ。
夫人は、一人で黙々とおもちゃの兵隊で遊んでいる男の子に話しかけた。
「その目はどうしたの?」少年はしばらく考えてから、眼帯を持ち上げてみせ、こう答えた。
「なんでもないよ。ぼくは海賊なんだ!」
スミス夫人は、交通事故で片足の膝から下を失ったために、この病院で治療を受け、そろそろ義足をつけられる状態にまで回復しつつあったが、心の痛手から立ち直ることができなかった。自分を障害者としか見ることができなかったのである。
ところが、少年の「ぼくは海賊なんだ!」のひと言がスミス夫人を変えた。一瞬のうちに、彼女の心はスティーブンソンの『宝島』に出てくる義足の海賊、ジョン・シルバーの勇士をイメージしたのだ!この時、障害者のイメージは消え去り、勇気が戻ってきた。
数分後、スミス夫人の名前が呼ばれた。松葉杖をついて夫人が立ち上がると、その足を見て男の子が尋ねた。
「おばさんの脚、どうしたの?」夫人は、短くなった自分の脚に目を落とすと、すぐに顔を上げ、にっこり笑って答えた。
「なんでもないの。おばさんも海賊なのよ」
『秘密のハーブ』 ドット・エイブラハム寄稿 『レミニス・マガジン』より
ベンには気にってしかたがないものが、妻のマーサが調味料棚に置いてある小さな金属製の容器である。
マーサには「絶対さわらないでね」と口うるさく言われていた。母から譲り受けた「秘密のハーブ」はもう二度と手に入らないという。
この調味料入れは、とても年季が入っているということ以外何の特徴もない。マーサの母親も、祖母も、曾祖母も、この調味料入れに入った「秘密のハーブ」を使ってきたのだ。
どんな料理を作るときでも「秘密のハーブ」をさっとひと振りするのだ。中身がなんであれ、その効き目は確かなもので、マーサは30年以上使い続けいつも美味しい料理を作ってきたのだ。
なぜ彼女は夫にその小さな容器を絶対に触らせなかったのだろう?そして「秘密のハーブ」はいったい何で出来ているのか?中身をのぞいてみたいというベンの思いは日増しに強くなってきた。一度でいいからちょっとだけ…。
そんなある日、マーサの具合が悪くなり一日だけ入院することになった。ベンは慣れない食事をすることにしたが、調味料棚に並んだ例の容器を目にした。好奇心がうずいた。中にはどんなものがはいっているのだろう?「秘密のハーブ」の正体とは?あとどのくらい残っているのか?どうして触ってはいけないのだろう?
ベンはおそるおそる手に取り、注意深くそのふたを取った。そして大きく目を見開いた!
なんと!中は空っぽで、ただ小さく折り畳んだ紙切れが底に張り付いていただけだった!彼はその紙切れをつまみだしゆっくり広げた。短い走り書きは、ひと目でマーサの母親の筆跡とわかった。それにはこう書かれていた。
『マーサ、あなたが作るすべての料理に愛をふりかけなさい』
ベンは、こみあげてくるものをぐっと飲み込んだ。そしてなぜ彼女の料理がおいしいか、その理由がすっかり納得できたのである。
なんかいいね。映画になりそうだね。(^^♪オススメ!