「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

POETRY〜…静かな感動!…動詞「ぶつかる」(吉野弘)

現代詩入門

現代詩入門

以前、このブログでも紹介した吉野弘氏。私の好きな詩人だ。(^^♪


POETRY〜 結婚する人に贈ります…『祝婚歌』吉野 弘
http://d.hatena.ne.jp/lp6ac4/20070402

彼の詩には、平易な言葉の中に鋭さと優しさと人の心を動かす何かがある。『ドキッ!』とした詩を紹介しよう。



動詞「ぶつかる」


ある朝
テレビの画面に
映し出された一人の娘さん
日本で最初の盲人電話交換手


その目は
外界を吸収できず
光を 明るく反映していた
何年か前に失明したという その目は


司会者が 通勤ぶりを紹介した
「出勤第一日目だけ お母さんに付き添ってもらい
そのあとは
ずっと一人で通勤してらっしゃるそうです」


「お勤めを始められて 今日で一ヶ月
すしづめ電車で片道小一時間・・・・・・」
そして聞いた
「朝夕の通勤は大変でしょう」


彼女が答えた
「ええ 大変は大変ですけれど
あっちこっちに ぶつかりながら歩きますから
なんとか・・・・・・」


「ぶつかりながら・・・・・ですか?」と司会者
彼女は ほほえんだ
「ぶつかるものがあると
かえって安心なのです」

目の見える私は
ぶつからずに歩く
人や物を
避けるべき障害として


盲人の彼女は
ぶつかりながら歩く
ぶつかってくる人や物を
世界から差しのべられる荒っぽい好意として


路上のゴミ箱や
ボルトの突き出ているガードレールや
身体を乱暴にこすって過ぎるバッグや
坐りの悪い敷石やいらいらした車の警笛


それは むしろ
彼女を生き生きと緊張させるもの
したしい障害
存在の肌ざわり


ぶつかってくるものすべてに
自分を打ち当て
火打ち石のように爽やかに発火しながら
歩いてゆく彼女

人と物との間を
しめったマッチ棒みたいに
一度も発火せず
ただ 通り抜けてきた私


世界を避けることしか知らなかった私の
鼻先に
不意にあらわれて
したたかにぶつかってきた彼女


避けようもなく
もんどり打って尻もちついた私に
彼女は ささやいてくれたのだ
ぶつかりかた 世界の所有術を


動詞「ぶつかる」が
そこに いた
娘さんの姿をして
ほほえんで


彼女のまわりには
物たちが ひしめいていた
彼女の目配せ一つですぐにも唱い出しそうな
したしい聖歌隊のように


クウ〜!(>_<) 私たちは、困難や問題や悩みにも『ぶつかり』ながら成長していくんだね。…深い!