- 作者: 吉村昭
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/04/10
- メディア: 新書
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吉村氏はこれまでに『漂流モノ』の6編の小説を書いており自ら「とりつかれた」と表現する。(・。・) 『漂流モノ』は面白すぎて、私もとりつかれそう!(>_<) そして本書は、その『漂流モノ』の総決算ともいうべき書物である。
なぜそんなに人を惹きつけるのかというと、死の危険にさらされた船乗りたちの苛烈な記録であり、彼らのあるものは死亡したり発狂したりし、ある者は苦難に強靭な意志で耐え抜く、その壮絶な人間記録だから。不思議と、それは『迷える時代』とも言える21世紀を生きる私たちに共通するところがあるような気がする。
1793年、石巻(宮城)から江戸に向かう途中で暴風雨に遭遇、破船漂流した「若宮丸」(乗員16名)。
ロシア・アリューシャンの島に漂着し、シベリアを横断して皇帝に謁見後、4名がバルト海を出港、ホーン岬を回り、なんと!日本人最初の世界一周ののち長崎に帰国したことが、『環海異聞』という書物に記録してある。
当時のロシアは冬季に港が凍ってしまうため、必然的に鎖国政策をとる日本との交流を望んでいた。
そこに現れた日本の漂流民は、礼儀正しく、文字の読み書きも出来る。生活する必要からロシア語の日常会話も身につけていた。ロシア政府の彼らの利用法は、日本に接触するために彼らを教師として日本語学校を作り、給料を与えロシアに安住することを勧める。 (^_^;)
幕府は鎖国政策をとっているのでキリシタンを禁制にしており、それをおかしたものは漂流者であろうが、容赦なく極刑に処する。一方、ロシア政府は彼らをギリシャ正教の信者にすれば、望郷の念を断つことになる。
漂流民は、やがてロシア女性とも親しくなり、結婚ということになる。式は教会で行われ必然的に洗礼を受け、洗礼名を与えられ、帰国への道は完全に断たれる…。クウ〜…複雑だ…。もし、自分だったらどういう選択をするだろうか…。
石巻市には、『石巻若宮丸漂流民の会』という研究会があるらしい。著者の吉村氏は実際に訪れる。そこには、当時若宮丸の太十郎が着ていた衣服があり、その子孫から見せてもらうシーンが胸を打つ…。(T_T)
本ってありがたいね。自分以外の人生を知ることができるのだから。