「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「エンプティスター」(大崎善生)

f:id:lp6ac4:20201108201550j:plain 

エンプティスター (角川文庫)

エンプティスター (角川文庫)

 

最近、全作品読破を狙っている大崎善生さん。いいなあ、いいんだよなあ!「聖の青春」などの将棋関係の本はもちろん、恋愛小説もいい!繰り返し読みたくなるっ!パイロットフィッシュ」アジアンタムブルーに続く三部作の完結編。

 
「恋人の七海と別れ、山崎隆二は途方に暮れていた。成人雑誌の編集部も辞め、校正者として無為に過ごす毎日。そんななか、七海の友人で行方不明になっていた風俗嬢の可奈を見たという噂を聞き、山崎は鶯谷へ向かう。彼女には会えなかったが、やがて「助けに来て」とすがりつく電話がかかってきた。山崎は囚われの身となっている可奈を救うため、海を渡った……。透明感あふれる文体で感情の揺れを繊細に綴った、至高の恋愛小説」そのエッセンスを紹介しよう。
 
水槽の水はポンプによって吸い込まれフィルターを通ることで物理と化学的な濾過をされ再び水槽に戻るという循環を繰り返すそうすることによって水から蛋白質アンモニアといった不純物が徐々に分解され水は透明度を増していく。では時間はどうなのだろうと僕は考える。時間もまた僕の周りを流れ続ける。流れ続けることによって時間は記憶へと分解されていく。記憶となって巡回しながら、不純物がとり除かれやはり透明度を増していく。
 
失うことは構わない。別にそんなにめずらしいことでもない。しかし案外面倒くさいのは、何かを失ってしまった新しい自分を、また再び生きはじめなければならないということにつきる。
 
「元祖責任者 早乙女まどかの これで 勘弁してください」
 
・45歳になった自分は、失ったものに囲まれていた。僕が立っている場所が絶海に浮かぶ孤島だとすれば、その周りを取り囲む圧倒的な広さの海は僕が失ったものだった。それはまるで人間が喪失によって象られていることを暗示しているように思えた。何かを得たからではなく、失ったものたちが僕という人間の形を作り上げている。
 
「人間の本質って管。ホースというよりもやっぱり管ね。」「じゃあ、人間と人間の関係は?」「摩擦」「愛は?」「摩擦熱。管と管の間に起こる」
 
・その感触ー。七海ではない。もっともっと前の古いレコードのようなガサガサとした乾いた感触胸の奥深くになるターンテーブルに置かれた30センチのレコードにダイヤモンドの針が落ち、ぽそりと音を立てたような気分だった。忘れかけていた33回転の音質。まるでマッチの煙を吸い込んだときのように苦く苦しい恋の感覚。僕はミリョンを見て、その時の姿の向こうにある何かを探しているレコード針に引っ掻き回されるくすぐったいような痛みを微かに感じながら。
 
・彼女との別れの苦しみの中で、それに耐えていく過程で、おそらく僕の中にこれからの人生の時間のすべてが暇つぶしに過ぎないという諦念が生まれてしまったのだ。そして驚いたことに、その感覚は消えていかなかった。まるで薄い皮膚のように僕の体に貼りつき、剥がれなくなってしまっていた。あれは僕にとってはじめての真剣な恋だった失うわけにはいかなかった。
 
・その後にも僕は何度かの恋をした。しかしそれらと由希子のことは、うまく言えないが何かが違っていた。僕は由希子と付き合うことではじめてこの世界の理屈を知っていった。世界が開けていくような感覚を味わっていたそれは中学のころに懸命に周波数を併せて、子供部屋のベッドの中でザ・ビートルズを聴いていたときと同じような胸の膨らみを感じさせた由希子を思い出すとき、僕の頭にはいつもビートルズの曲が流れている。
 
「相変わらず星は空っぽなのかな?」
 
解らないことを解ろうとするから人間は苦しまなければならないのというある新聞記者の言葉が蘇ってくる。解らないことに対処する方法がただひとつ。勇気を持って受け入れること。それしかない。

 

この本で、ワタシの人生の数多い(!?)恋愛遍歴を思い出しました。いつか小説を書きたい。あっ!その前に歌を書きたいっ!超オススメです。(・∀・)

 

f:id:lp6ac4:20201108201550j:plain

エンプティスター (角川文庫)

エンプティスター (角川文庫)

 

 

「最後の晩餐  久米宏対話集」

f:id:lp6ac4:20201108060926j:plain

最後の晩餐 久米宏対話集

最後の晩餐 久米宏対話集

  • 作者:久米 宏
  • 発売日: 1999/04/26
  • メディア: 単行本
 

 

このタイトルを見て、そういえば昔、久米さんの番組でこんなコーナーがあったなあ!ということを思い出しました。 懐かしいっ!(・∀・)

 

「明日あなたが死ぬとわかったら、最後の晩餐は誰と、どこで、何を食べたいですか」いかりや長介内田春菊大石静、大橋巨橋他、ニュースステーション』話題のシリーズを完全再現」そのエッセンスを紹介しよう。
 
 
・よく親に言われたんですよ。上を見ればきりながい。下を見てもきりがない。それが唯一、ぼくの人生哲学だから、あまり不満を言わないんです。(大橋巨泉
 
いやあ、おもしろかった人生ですよ。今思えば、昔苦労したことなんか、みんな楽しくなってますからね。幸せだったなあ、と思いますね。(ジャイアント馬場
 
シナリオライターって、地味な、報われない仕事ですよねだって、クラス会なんかに行くと、芸能界ですごく華やかにやっているように見られるでしょ。優さんと毎日ご飯食べてるみたいに見られますけど、私は自宅でワープロを打ってるだけですよ。パジャマを着て、そのまま寝て、そのまま起きて、原稿を書いて、立ったままご飯をたべてみたいな世界じゃないですか。現場も行ってる暇はないし、俳優さんのようにコマーシャルでドカーンと稼ぐことも全然ないし、ほんとに収入もたいしたことないし、ささうやかだなあと思いますね。手応えとして報われたという感じは少ないですね。テロップに脚本、大石静と二秒ぐらい出ますよね。瞬間、晴れがましいです。で、それで終わり(笑)そういう感じですよ。拍手する暇もないぐらいです。「わあ、楽しい」と思う瞬間はほとんどないですよ。(大石静
 
63年間という長きにわたりまして、私は父親がいないという人生を一度も生きたことが当然ないわけですね。ですから、そのつっかえ棒がはずれたときに、自立心が……、この年になって、ほんとにばかばかしいとお思いでしょうが、自立心がつくまでというのは、ちょっと時間がかかりましね。どうしていいんだかわからなくて。(いかりや長介
 
私が男に関心があるのは、男が弱いから好きなんですよ。弱いものが好きで、強いものはどうも好きじゃないんですね。私はこの年になるまで、強い男と弱い女は見たことがないって言うんですよ。男は繊細で、デリケートで、神経質で、気が弱くて、血を見たら、ふーっと気を失うし、風邪を引いたら、もう死ぬような騒ぎをするし。(笑)だから会社が倒産して、首吊るのは男だけです。中小企業の女社長は山ほどいるんだけど、倒産して首釣った人は一人もいませんよ。女というのは幻想の動物なの。実際にはいないものを、かくあらまほしきっていうことで、男たちがいっぱい書いてきたんですよ、こういう女、ああいう女って。それで結婚してみると、違ってるから。結婚するまでは女は、男の求めてる女がわかるから装うの。(美輪明宏
 
・私は、結構頑固者です。生放送にしろ、収録にしろ、インタビューの時には
ひとつの鉄則を守っています。それは「メモは見ない」従ってメモを作らない」ということです。メモを見ながら質問をしたくない。ただ普通に、自然に話をしたいのです。話は、成りゆきにまかせたいのです。ただ、これが実は大変なのです。インタビューの前には、出来るだけ資料を揃え、それを頭に入れる。早い話が丸暗記です。とにかく「最後の晩餐」はとても疲れるのです。収録後、体重が減ったと思う程、疲れるのです。で、一年に十本出来るかどうかというペースです。この本のパートⅡが日の目を見ることは果たしてあるのでしょうか。(久米宏

 

ワタシは何かなあ……新潟の、母の「けんちん汁」と「しょうゆの実」と「ごはん」かなあ……。(笑)食べ物のハナシよりも、それ以外のインタビューが実にオモシロイ。オススメです。(・∀・)

 

f:id:lp6ac4:20201108060926j:plain

最後の晩餐 久米宏対話集

最後の晩餐 久米宏対話集

  • 作者:久米 宏
  • 発売日: 1999/04/26
  • メディア: 単行本
 

 

「よむお酒」(酒の穴 パリッコ/スズキナオ)

f:id:lp6ac4:20201107071337j:plain

“よむ"お酒

“よむ"お酒

 

若い頃は、居酒屋や立ち飲み屋で一人で飲んでいる人や、電車の中で缶ビールを飲んでいる人を見て、ああ〜いやだな〜あんな酒飲みオヤジは……あんな風になりたくないなあ……なんて思っていたら、いつの間に「そんな大人」になってしまったっ!!!(笑)

 

お酒は飲むのも「読む」のもいいかも!「これは世界一役に立たない“お酒"の本です。でも、読むと人生が少しだけラクになる…かも。人気酒場ライター2人による酒飲みユニット「酒の穴」による初エッセイ集」そのエッセンスを紹介しよう。

 
ふたりで「酒の穴」というユニットをやっているんですよね。活動はただ、酒を飲むだけ。飲み方とか、酒場で使う金銭感覚みたいなものが驚くほど共通していて、よく遊ぶようになって「次はこんな飲み方してみない?」「うおー楽しい」みたいな。いろいろな酒の飲み方を模索する寄合。お金をたっぷり使ってどこのうまい店で飲むか、ではなく、お金がまったくないときに、どうやって酒を飲むか。酒好きの真価が問われるのはそんな局面ではないだろうか。
 
・「めちゃくちゃ飲んで発散したい!」とか「今まで言えなかったことを酒の勢いで言ってやれ!」とか、最初に目的があって、そこに近づくために酒を利用するとロクなことにならない酒がうまいから、あるいは酒と一緒に味わう料理が美味しいから酒を飲む。ただ、飲みたいから飲む
 
・飛行機の機内サービスで缶ビール500円。上空数千メートルをすごいスピードで飛行しながら飲めるビールが500円。かなり安いでしょ!「空中移動式居酒屋」と考えれば驚きのリーズナブル価格といえる。そういう意味で、私は大型フェリーこそ最高の居酒屋だと思っている。広い船内歩き放題の「水上移動式居酒屋」、酒やおつまみの安く、海が見放題で勝手に目的地まで連れていってくれるサービス付きである。
 
この本に紹介されている本で残念ながら閉店してしまったお店も多いね……残念……行けるときに行っておいた方がいいね。大阪城(だいはんじょう)」(大阪府守口市は今度、行ってみよ!
 
ワタシのお酒の感覚に近いなあ。共感できるなあ。酒飲みには超オススメです!(・∀・)

 

f:id:lp6ac4:20201107071337j:plain

“よむ"お酒

“よむ"お酒

 

 

「1988年のパ・リーグ」(山室寛之)

f:id:lp6ac4:20201106062957j:plain

1988年のパ・リーグ

1988年のパ・リーグ

  • 作者:山室 寛之
  • 発売日: 2019/07/16
  • メディア: 単行本
 

ワタシの野球観戦人生の中でトップ3に入る出来事が、伝説の「10・19」。きっと共感する野球ファンも多いことだろう。久米さんのニュースステーションが突如、「近鉄ロッテ戦」の生放送を開始した。そして釘付けになった!!!何度も何度も再放送やYou Tubeで観るたびに、あのときの感動がよみがえるっ!!!

 

さてこの本。「南海・阪急の衝撃的な身売り、そして伝説のロッテvs近鉄「10・19」──球史に残る、昭和最終年のシーズン舞台裏!!」そのエッセンスを紹介しよう。

 

天皇陛下のご容体、異常気象、未曾有の構造疑惑……そんな停滞感を吹き飛ばしたのは、プロ野球、それもパ・リーグの試合だった。10月19日。近鉄バファローズがロッテオリオンズダブルヘッダーで戦った。第1試合に近鉄が勝てば、優勝へマジック1。近鉄が敗れるか引き分けた瞬間に、西武ライオンズの優勝が決まるという、ペナントレースの最終盤にきて、最も注目の集まる試合となった。
 
・89年1月、天皇陛下崩御され、時代は昭和から平成へ移った。昭和のプロ野球は幕を閉じた。日本球界から野茂英雄イチロー松井秀喜大谷翔平らがメジャーへ飛び立ち、日々進化を続けた平成時代のプロ野球は、2018年。2018年、球団結成から80年目の福岡ソフトバンクホークスが2連覇で平成最後の日本一に輝いた。2019年5月から日本は、新しい「令和」の時代を迎えた。昭和の野球はさらに遠くなり、語られることも少なくなるだろう。温故知新ではないが、この機会に、パ・リーグの再生と飛躍へ直結した2球団同時消滅と、10・19に至る昭和最晩年の「野球史」の深層部分を新事実とともに明らかにしたい。
 
・三縁会の夕食は、酒が入ってにぎやかになった。うちは来年から社名を変更する予定だ。でも、変更を告知するには結構、お金がかかる。テレビや新聞やCMも必要だろうが、果たして短期間で浸透するかどうか……。いっそのことプロ野球の球団でも買おうか。そんな話まで出ている」オリエントの西名がぽつりと語った一言が激震の前触れだった。
 
オリックス」の「オリ」はオリジナルで独創性を強調、「X」は未知数の発展、無限の可能性を込めたものとされた。「いっそのことプロ野球の球団でも持ったらどうか」とは、社名変更を目前にして宮内が時々冗談めかしてつぶやいていた言葉だった。
 
阪急電鉄が抱える、飛び切りの極秘情報があった。電鉄が球団を手放す条件は、
 
プロ野球から阪急が単独で撤退することは避けたい。
②リーグを問わず、他球団が身売りした同じ年に手放したい。
関西空港新設とからみ、難波再開発を迫られる南海が撤退する可能性がある。同じ年内に南海に続けば目立たず最善である、と具体的だった。
 
ワタシの大好きな阪急が消滅したときは、本当にビックリした!今のパ・リーグの繁栄は、この年が分水嶺になっている。そして昭和の野球が終わった。あー!また動画みたくなったー!野球ファン必読っ!オススメです!(・∀・)

 

f:id:lp6ac4:20201106062957j:plain

1988年のパ・リーグ

1988年のパ・リーグ

  • 作者:山室 寛之
  • 発売日: 2019/07/16
  • メディア: 単行本
 

 

「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」(若林正恭)

f:id:lp6ac4:20201104183330j:plain

お笑いコンビ「オードリー」若林正恭「激レアさんを連れてきた」で毎週テレビで見ているが、こんなステキな文章を書くとは思わなかったっ!!!キューバ旅行記でありながら、父と子の物語なのだ!

 

第3回斎藤茂太賞受賞!選考委員の椎名誠氏に「新しい旅文学の誕生」と絶賛された名作紀行文。飛行機の空席は残り1席――芸人として多忙を極める著者は、5日間の夏休み、何かに背中を押されるように一人キューバへと旅立った。クラシックカーの排ガス、革命、ヘミングウェイ、青いカリブ海……「日本と逆のシステム」の風景と、そこに生きる人々との交流に心ほぐされた頃、隠された旅の目的が明らかに――落涙必至のベストセラー紀行文」そのエッセンスを紹介しよう。
 
 
20代。ぼくの部屋にはエアコンがなかった。エアコンというものがこの世に誕生する前、エアコンがないことが辛くて自殺したした人間した人間はいるだろうか?
ぼくはエアコンがないことが辛いのではなくて、エアコンをほとんどの人が持っているのに、自分が持っていないことが辛かった。
 
キューバって安全なの?」とよく聞かれたが、キューバ中南米の国の中では群を抜いて治安が良い。キューバ危機や社会主義の国のイメージが、危ない国の対象となっているのだろう。5日感、この国の価値観からぼくを引き離してくれ。同調圧力と自意識過剰が及ばない所までぼくを連れ去ってくれ。ぼくは今から5日間だけ、灰色の街と無関係になる。
 
キューバはネットの電波が飛んでいない。街中ではほとんどネットが使えない。ぼくは、タクシーの列の横を運転手一人一人の顔と体格をよく見ながら歩いた。なるべく細くて背が低くて、恒例の運転手を探した。もしものことがあった時に、腕力でなんとか勝てそうな運転手を選ぶのだ。幸い、キューバ銃社会ではない。体力的に買っていれば命まで取られることはないだろう。同性を動物として勝てるかどうかで見るのは久しぶりだった
 
ニューヨークや東京で見るような近代的な高層ビルはひとつも見当たらない。どの建物も年季が入っている。まだ仄かに残っている街灯の明かり。道路脇に停まっているっ車は、どれもクラシックカーだ。だいぶ先の汚れた煙突からは真っ黒い煙が吐き出されていて、海の方角へふらふらと漂っている。汚くて古いのに、東京の町並よりも活力を感じるのは、なぜだろう。どのぐらいの時間眺めていただろう。全然飽きなかった。しばらくすると、街は太陽の光を浴びて色を伴ってきた。人の声や車の音、人間が活動する音が徐々に耳に入ってきた。ぼくは笑っていた。「笑み」というレベルではなくて、口を押さえてほとんど爆笑していた。これはどんな笑いなんだろう。誰かの顔色をうかがった感情じゃない。お金につながる気持ちじゃない。自分の脳細胞がこの景色を自由に、正直に、感じている。今日からそれが3日間限定で許される。なぜなら、キューバに一人で来たからだ。
 
カバーニャ要塞で一番記憶に残っているのは一匹の野良犬だった。真っ昼間の炎天下のカバーニャ要塞、死んでいるかのように寝そべっている野良犬になぜか目を奪われた
薄汚れて手厚く扱われている様子はないが、なぜか気高い印象を受けた。東京で見る、しっかりとリードにつながれた、毛がホワホワの、サングラスとファーで自分をごまかしているような飼い主に、甘えて尻尾を振っているような犬よりよっぽどかわいく見えた。なぜだろう。あの犬は手厚い庇護を受けていない。観光客に取り入って餌を貰っている。そして、少し汚れている。だけれども、自由だ。誰かに飼いならされるより自由と貧しさを選んでいた。ぼくの幻想だろうか?それとも、キューバだろうか?
 
この景色は、なぜぼくをこんなにも素敵な気分にしてくれるんだろう?いつまでも見ていられる。ぼーっと目の前の風景を眺めていると、なるほどそうか、あることに気づいた。広告がないのだ。社会主義だから当たり前といっちゃ当たり前なのだが、広告の看板がない。ここで、初めて自分が広告の看板を見ることがあまり好きではないことに気づいた。東京にいると嫌というほど、広告の看板が目に入る。それを見ていると、要らないものも持っていなければいけないような気がしてくる。必要のないものも、持っていないと不幸だと言われているような気がぼくはしてしまうのだ。
 
・東京でのぼくは自他共に認めるインドア人間であるからだ。もしかしたら、出不精ではなくて東京に行きたい所がないのかもしれない出掛けたい所があることって、人を幸せにするんだな。「明日も、まだ行ったことがない所に行ける」
 
悲しみにキューバに来たはずなのに、そういう気分に全然ならなかった。苦しんでいた親父が他界した時、悲しみとともにホッとした気持ちもあった。親父はもう天国で好きなだけ酒もタバコもギターもやれるんだ。そんな安心があった。亡くなって遠くに行ってしまうのかと思っていたが、不思議なことにこの世界に親父が充満しているのだ。現にぼくはこの旅の間ずっと親父と会話をしていた。いや、親父が旅立ってからずっとだ。生きている時よりも死んだ後の方が誓うなるなんてことが、あるんだな。
 
・ぼくがこの目で見たかったものって何だったんだろう?帰りの機内で考えていた。マレコン通りに集まる人々の顔が脳裏に浮かんでくる。ああいう表情は、どういう気持ちの時にする顔だろう?この目で見たかったのは競争相手ではない人間同士が話している時の表情だったのかもしれない。ぼくが求めていたものは、血の通った関係だった。ぼくにとって、その象徴の一人が親父だった。

 

この本を読んで、ワタシも父のことを思い出しました。男同士って、父と子ってなかなかコミュニケーション、難しいよね、というか恥ずかしいよね。父が生前、一度だけ一緒に五行歌の歌会に行ったことがある。普段は外出しない父が珍しい。あれが最期だったなあ。ワタシが新潟に帰りたくなるのも、父やご先祖様に会うためなんだな、と気づきました。超オススメです。(・∀・)

 

f:id:lp6ac4:20201104183330j:plain

 

「コンビニ人間」(村田沙耶香)

f:id:lp6ac4:20201104051855j:plain

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 

ここ数年気になっているが作家が村田沙耶香さん。「女の子が少女に変化する時間」を描写した『しろいろの街の、その骨の体温の』の感性と表現力がとても新鮮だったなあ……。

 

lp6ac4.hatenablog.com

 

そしてようやく読みました!第155回芥川賞受賞作がこの本。これまたスゴい!実に考えさせられる。「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う。36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる」そのエッセンスを紹介しよう。

 
・スマイルマート日色街駅前店はい日日も休むことなく、灯りを灯したまま開店しつづけている先日お店は19回目の5月1日を迎え、あれから15万7800時間が経過した。私は36歳になり、お店も、店員としての私も、18歳になった。店長も8人目。店の商品だって、あの日の物は一つも残っていない。けれど私は変わらず店員のままだ。
 
なぜコンビニエンスストアでないといけないのか、普通の就職先ではだめなのか、私にもわからなかった。ただ、完璧なマニュアルがあって「店員」になることはできても、マニュアルの外ではどうすれば普通の人間になれるのか、やはりさっぱりわからないままなのだ。一応就職活動をしてみたこともあるが、面接で何故何年もアルバイトをしていたのかをうまく説明できなかった。
 
・朝、こうしてコンビニのパンを食べて、昼ごはんは休憩中にコンビニのおにぎりとファーストフードを食べ、夜も、疲れているときはそのまま店のものを買って帰ることが多い。2リットルのペットボトルの水は働いている間に半分ほど飲み終え、そのまま持ち帰り夜までそれを飲んで過ごす。私の身体のほとんどがこのコンビニの食料でできているのだと思うと、自分が、雑貨の棚やコーヒーマシンと同じ、この店の一部であるかのように感じられる。
 
早くコンビニに行きたいな、と思った。コンビニでは、働くメンバーの一員であることが何よりも大切にされていて、こんなに複雑ではない。性別も年齢も国籍も関係なく、同じ制服を身に付ければ全員が店員という「均等」な存在だ。
 
もし、本当に老いてコンビニで働くことができなくなったら自分はどうなるのだろう、と考えることがある。6人目の店長は、腰を痛めて働くことができず、会社を辞めていった。そうならないためにも、私の身体は、コンビニの為に健康でありつづけなければならないのだった。
 
・「あなたは僕をここにおいて、食事さえ出してくれればそれでいい」「はあ……まあ、白羽さんに収入がない限り、請求してもしょうがありませんよね。私も貧乏なので現金は無理ですが、餌を与えるんで、それを食べてもらえれば「餌……?」「あ、ごめんさい。家に動物がいるのって初めてなので、ペットのような気がして」
 
客だけは、変わらず店に来て、「店員」としての私を必要としてくれる。自分と同じ細胞のように思っていた皆がどんどんムラのオスとメス」になっていってしまっている不気味さの中で、客だけが私を店員でありつづけさせてくれていた。
 
・18年間、辞めていく人を何人か見ていたが、あっという間にその隙間は埋まってしまう。自分がいなくなった場所もあっという間に補完され、コンビニは明日からも同じように回転していくんだろうなと思う。
 
コンビニの『声』が聞こえるんです。身体の中にコンビニの『声』が流れてきて、止まらないんです。私はこの声を聴くために生まれてきたんです。気がついたんです。私は人間である以上にコンビニ店員なんです人間としていびつでも、たとえ食べていけなくてのた死んでも、そのことから逃れられないんです。私の細胞全部が、コンビニのために存在しているんです。
 
・こうして喋っている時間がもったいなかった。コンビニのために、また身体を整えないといけない。もっと早く正確に動いて、ドリンクの補充も床の掃除ももっと早くできるようにコンビニの「声」にもっと完璧に従えるように、肉体のすべてを改造していかなくてはいけないのだ。

 

……これ、このようなコンビニ人間」は私たちのことではないだろうか!?ワタシ自信も「歯車」になっていそうな感じがする。ホント、「普通」ってなんだろうね!?普通はイヤだけどね〜。感想を話し合いたい。超オススメです!(・∀・)

 

f:id:lp6ac4:20201104051855j:plain

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 

「だからこそ、自分にフェアでなければならない。プロ登山家・竹内洋岳のルール」(小林紀晴)

f:id:lp6ac4:20201103054626j:plain

 この本はお世辞抜きに感動したなあ!自分にはない世界感と価値観に心が揺さぶられたなあ!♪ プロ登山家なのに、登山靴は履かない、水筒はもたない、休憩はしない、食べない。その理由がわかった!へえ〜!(・∀・)

 

竹内洋岳は標高8000メートル以上の14座すべての登頂に成功した、日本人初の14サミッター。彼だけがなぜ登り切れたのか、その深層に迫る。「経験は積むものではなく、並べるもの」「人は死なないようにできている」「実際には、日常生活の方が死に近い」「想像力と恐怖心を利用して危険を回避する」——命を賭して登り続けるプロ登山家の「人生哲学」。そのエッセンスを紹介しよう。
 
 
竹内洋岳。日本人で唯一、地球上に存在する標高8000m以上の14座すべての登頂に成功した人。いわゆる14(フォーティーン)サミッターである。何故、日本人で彼だけが、14座の登頂に成功したのか。死の領域と呼ばれる8000mへ何度も向かい、命を落とすことなく生還し続け、その記録を作り上げたことには確実に理由があるはず。ほかの人とは何かが決定的に違うはずだそのことを私は知りたい。
 
登山は年齢じゃないと思いますよ。やぱり内容も含めた回数だと思いますそのあいだにどんな登山をしてきたかでしかないと思っています。
 
運は存在しないというのが私の山登りです。運で片付けてしまうと、その先考えようがなくなっちゃうわけです。そこで思考が停止してしまいます。私は山で次に何が起きるかを、想像しようと思っています。登山っていうのは想像のスポーツですから。頂上まで登って下りてくる自分を、ちゃんと想像できた人しか登って下りてこられないわけです。さらに死ぬという想像さえもできるかどうか。例えば、ここで落ちたら、上向きになって、あそこにぶつかって、最後こうなって死ぬっていうところまでが想像できれば、そうならないためにはどうしたらいいかって想像もできます、そこまでの想像をリアルにしたいり、しようとしている。山は想像できるかどうかにかかっています何に細かく多方向に多重に想像できるかどうかを、私たちは競ってる。それが面白いわけですだけどそらが運だといってしまうと想像がなくなってしまうんですよ。想像することで危険を察知して、危険を避けるわけですから。それらを運のことにしてしまったら、そもそも登山が成り立たない。だから私にとって山では運は存在しないということです。
 
山登りは嫌だったらやめていいことだと思います少なくとも山登りは、嫌でもやらなきゃいけないことじゃない。それに私は、登りたいと思う山だけを登ってきましたから。
 
・そもそも自分を振り返ってみると、やれと言われたことをやったためしがない。どちらかっていうと、やっちゃ駄目って言われたことを隠れてやっていたような気がします。それゆえ、山登りは素晴らしい、やりましょうというのは全然言う気がありません。もし本当に山登りの面白さとか魅力を知りたいのなら、登るしかないんですよ。だからこそ、私はみんなに山登りをやってもらいたい。
 
事故っていうはの、防げない事故と防げる事故があると思うんです。
 
ゴミを持ち帰る人とそうでない人の差は、また来るか来ないかの意識の違いだと思います。自分で持ち込んだものっていうのは、自分の身体の一部のようなものですから。それが、自分と一緒に下りてきてないっていうのは、非常に気持ち悪い。手袋や靴下やらを失くしたら、手や足をどこかに置いてきてしまうようなもの。怪我をしたり、帰ってこられなくなったりするぞ、ということなんです。
 
「どうして汗をかかないんですか?」「汗をかかないんじゃなくて、かかないように歩いています。汗をかきそうになったら、ペースを落としたり、上着のボタンを開けたりします。でも、止まることはありません」「どうしてですか?」「止まると身体が冷えるからです。だからできるだけ、休憩もしません」「休憩しないんですか?」「はい。それに、歩いている途中であまり食べたり飲んだりもしません。食べると疲れるからです。(国内では)水筒も極力持っていきません。ペットボトルが多いです」「どうしてですか?」「ペットボトルは飲み終わったらつぶせます。でも水筒だとそうはいきません」
 
いじめは雪崩と同じだと考えています。一人で立ち向かっていったって止められもしないし、流れも変えられない。だから、もう逃げろ、逃げてしまえと。私はそれしかないと思います。誰かに助けてもらうとか、誰かが何かしてくれるの待ってたって、解決んかしなし、そのあいだに飲み込まれちゃったらどうなっちゃうかわからないから、とにかく逃げろ、逃げろ。
 
・「いちばん素晴らしいと思われるのはどの山ですか」次に登る山です」
 
「遭難事故が増えたからといって、無謀な登山が増えたわけではない」「富士山とエベレストとゴミ」「死の領域へ向かうことは進化競争。それが面白い」「経験は積むものではなく、並べるもの」「登山に向いているかどうかは、目つきでわかる」「生き延びるのではなく、人は死なないようにできている」「自分の足で下りてこないのは、死んでいるのと同じ。だから下りるために、下り直しに行った」「山は人が作り上げていくもの」「登山はルールのないスポーツ。だからこそ、私たちは自分にフェアでなければならない」など。
 
確かに「経験は並べるもの」かもしれないね。新たなコトバを仕入れました。超オススメです!♪
 
 
プロ登山家 竹内洋岳(たけうちひろたか)の公式サイト

f:id:lp6ac4:20201103054626j:plain