ここ数年気になっているが作家が村田沙耶香さん。「女の子が少女に変化する時間」を描写した『しろいろの街の、その骨の体温の』の感性と表現力がとても新鮮だったなあ……。
そしてようやく読みました!第155回芥川賞受賞作がこの本。これまたスゴい!実に考えさせられる。「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う。36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる」そのエッセンスを紹介しよう。
・スマイルマート日色街駅前店はい日日も休むことなく、 灯りを灯したまま開店しつづけている。 先日お店は19回目の5月1日を迎え、 あれから15万7800時間が経過した。私は36歳になり、 お店も、店員としての私も、18歳になった。店長も8人目。 店の商品だって、あの日の物は一つも残っていない。 けれど私は変わらず店員のままだ。
・なぜコンビニエンスストアでないといけないのか、 普通の就職先ではだめなのか、私にもわからなかった。ただ、 完璧なマニュアルがあって「店員」になることはできても、 マニュアルの外ではどうすれば普通の人間になれるのか、 やはりさっぱりわからないままなのだ。 一応就職活動をしてみたこともあるが、 面接で何故何年もアルバイトをしていたのかをうまく説明できな かった。
・朝、こうしてコンビニのパンを食べて、 昼ごはんは休憩中にコンビニのおにぎりとファーストフードを食べ 、夜も、 疲れているときはそのまま店のものを買って帰ることが多い。 2リットルのペットボトルの水は働いている間に半分ほど飲み終え 、そのまま持ち帰り夜までそれを飲んで過ごす。 私の身体のほとんどがこのコンビニの食料でできているのだと思う と、自分が、雑貨の棚やコーヒーマシンと同じ、 この店の一部であるかのように感じられる。
・早くコンビニに行きたいな、と思った。コンビニでは、 働くメンバーの一員であることが何よりも大切にされていて、 こんなに複雑ではない。性別も年齢も国籍も関係なく、 同じ制服を身に付ければ全員が店員という「均等」な存在だ。
・もし、 本当に老いてコンビニで働くことができなくなったら自分はどうな るのだろう、と考えることがある。6人目の店長は、 腰を痛めて働くことができず、会社を辞めていった。 そうならないためにも、私の身体は、 コンビニの為に健康でありつづけなければならないのだった。
・「あなたは僕をここにおいて、 食事さえ出してくれればそれでいい」「はあ……まあ、 白羽さんに収入がない限り、請求してもしょうがありませんよね。 私も貧乏なので現金は無理ですが、餌を与えるんで、 それを食べてもらえれば」「餌……?」「あ、ごめんさい。 家に動物がいるのって初めてなので、ペットのような気がして」
・客だけは、変わらず店に来て、「店員」 としての私を必要としてくれる。 自分と同じ細胞のように思っていた皆がどんどん「 ムラのオスとメス」になっていってしまっている不気味さの中で、 客だけが私を店員でありつづけさせてくれていた。
・18年間、辞めていく人を何人か見ていたが、 あっという間にその隙間は埋まってしまう。 自分がいなくなった場所もあっという間に補完され、 コンビニは明日からも同じように回転していくんだろうなと思う。
・コンビニの『声』が聞こえるんです。身体の中にコンビニの『 声』が流れてきて、止まらないんです。 私はこの声を聴くために生まれてきたんです。気がついたんです。 私は人間である以上にコンビニ店員なんです。 人間としていびつでも、たとえ食べていけなくてのた死んでも、 そのことから逃れられないんです。私の細胞全部が、 コンビニのために存在しているんです。
・こうして喋っている時間がもったいなかった。 コンビニのために、また身体を整えないといけない。 もっと早く正確に動いて、 ドリンクの補充も床の掃除ももっと早くできるようにコンビニの「 声」にもっと完璧に従えるように、 肉体のすべてを改造していかなくてはいけないのだ。
……これ、このような「コンビニ人間」は私たちのことではないだろうか!?ワタシ自信も「歯車」になっていそうな感じがする。ホント、「普通」ってなんだろうね!?普通はイヤだけどね〜。感想を話し合いたい。超オススメです!(・∀・)