この本はスゴイ!1992年11月発行だから、31年前。ワタシが28歳のときかー。いまや伝説になっているかもしれない。東京で家賃2万円以下の人を紹介している。そういえば、ワタシの同級生で、向ヶ丘遊園駅のすぐそばで、家賃1万5千円のところに棲んでいるヤツ、いたなあ。当時は、まだまだそういう時代だったね。
「バブル崩壊後のライフスタイル提言。「何か」にチャレンジする心を失わず、風の吹くママ、気の向くママに生きる。「住めば都」の精神が、未来を開く! ――日本の首都・東京で、家賃2万円以下でも、楽しく暮らす痛快な人々。時間に追われず、モノに縛られず、金に執着しない。風の吹くまま、気の向くまま。自分の中の「何か」にかけ、その感触を大切にしている若者。それは、何年か前のあなたの姿、何年か後のあなたの姿、あるいは、現在のあなたの姿なのかもしれない」そのエッセンスを紹介しよう。
・この本に登場するのは全て、東京二三区内に棲んでいて、 家賃二万以下、という人物たちである。貧乏である。例えば、 登場人物の一人は、ロックスターを目指して大阪から上京し、 現在家賃一万円の三畳間に棲息している。月収は十万を切る。 たしかに貧乏ではある。だが、今の日本、 どう転んでももうちょっとはましな暮らしができる。 ところが人物たちは、 あえてそういう生活を離れようとするのである。 アルバイトで自由な時間をつくり、自分の中の“何か”に賭け、 この黄濁した東京の空気の中で、 清澄な光輝を全身から放とうと身構えているらしいのだ。
・“何か”はいつか人物たちの手の中ですり切れ、 あるいは錆びつき、風化していくかもしれない。 人物たちは都市の日常と常識の中に喰わえ込まれ、 やがて身動きがとれなくなるかもしれない。
・しかし人物たちは、少なくとも今のところ、掌の中の“何か” の感触を大切に味わっているようである。 彼らの生活のどこかには、必ず喜悦の気配が感じられる。それは、 何年か前のあなたの姿なのかもしれないし、 何年後のあなたの姿かもしれない。あるいは、今のあなたの姿、 そのものなのかもしれない。だが、その“何か” を持っていること、持ち続けていることは、 時には酸を飲むようにしんどいことでもある。 グラスでも片手にしながら「こいつバカじゃなねえの」とか、「 あー、こいつ俺に似てる」とかいう感じで読んで頂ければ、 作者としてこれに勝る喜びはない。
「銭湯がすごい好きなんですよ。あたし、 絶対一生銭湯に通いたいんです。シャワーなんか、 ちゃっちいのがついている部屋に住むより、 銭湯に行った方がいいじゃないですか。だって、バスを磨いてて、 お湯を張って、なんてやってたら、何分かかると思いますか。それなら銭湯行って、 広いところでのんびりラドン温泉に浸かったり、 サウナに入ったりしたほうが絶対いいと思いませんか。 とにかく風呂つきの部屋なんていやなんです。 トイレがついていたら、 トイレ掃除もしなくちゃいけないでしょう。 だいいち部屋にトイレがついていたら臭いじゃないですか」
・サイテー生活で一番いいところは、 何と言っても自分の時間を豊富に持てることである。 つまりこれは、
家賃が二万円以下だ → 生活費が少なくてもいい → あくせく働く必要がない → 自分の時間が豊富に持てる → しあわせ
というゴールデン・パターンである。“ ただヒマなだけじゃねーか”という話もあるけど、 僕はボーッとしている時に「しあわせ」 を感じてしまうタイプなので、その通りだ、 強く言い切ってしまう。
・東京サイテー生活の傾向(彼らの夢)
①ボーカリスト ②役者 ③デザイナー ④コメディアン ⑤パンクロッカー ⑥日本画家 ⑦工業デザイナー ⑧パンクロッカー ⑨映画監督 ⑩不明 ⑪不明 ⑫ゲイ・ライター ⑬ノーベル賞物理学者 ⑭夢はない ⑮書家 ⑯不明 ⑰不明 ⑱国内ツアーコンダクター ⑲女優
大部分のサイテーニンゲンたちは“アート”を志向しているのだ。 では一方、彼らは現実に何でメシを喰っていたろうか。
①バーテンダー ②新幹線の車内販売 ③古着屋店員+コンビニレジ打ち ④コメディアン ⑤書店員 ⑥デザイン事務所の受付 ⑦貯金 ⑧不明 ⑨焼肉店員 ⑩ウォーター・ビィズィネス・ウーマン ⑪ウエイター ⑫書店員 ⑬プログラマー ⑭社員食堂のコック見習い ⑮書家 ⑯英語教師 ⑰NHKの集金人 ⑱ウエイター ⑲新聞の発送
圧倒的にサービス業の仕事だということが判る。そうすると、 意外なことだけれど、 東京の都市機能を支えるエネルギーというのは、 アートへの情熱から来ていることになる。 少なくともサイテー生活から見ると。
・東京サイテー生活も、いまや、絶滅しつつある。 絶滅は決定的だ。逃げ道はない。我々は、 その運命にじっと耐えていくしかない。五十年後。 未来の子供たちに「なぜ“東京サイテー生活”は、絶滅したの?」 と聞かれたら、それに答えなければならない責任が、僕にはある。 異常な東京の地価が、 東京サイテー生活を確実に破滅へと導いている。 滅びゆくものは美しい。たとえそれが“東京サイテー生活” であっても。
・僕の今のひそかな願いは、五十年後、 もう一度この本を読み返してみたい、ということである。 あの頃は貧しかったなあ、としみじみ思うかもしれないし、 なんて豊かだったあんだろう、と感嘆するかもしれない、 79歳になった僕は、まだ東京に棲んでいるだろうか。
いまだに家賃2万円以下、という物件があるのだろうか!?ぜひ令和版の続編を出版していただきたい。超オススメです。(^ν^)