「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「慈雨」(柚月裕子)

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慈雨 (集英社文庫)

慈雨 (集英社文庫)

 

 中学生の頃、永井龍雲「お遍路」という歌を聞いて「お遍路」というコトバを知った。当時、彼はデビュー当時の20歳か21歳だろう。「♪〜人生の重みを杖ひとつで やっと支えながら」「人生にいくたび騙されても じっとこらえてきた」という歌詞の重みに感動した記憶がこの本でよみがえってきた。

 
警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー」そのエッセンスを紹介しよう。
 
・「すべての人間が、本人の意思とは関係なく、この世に産み落とされる。望まれて生まれてくる命と、そうでない命ーだが、命の重さは変わらん。どの命も、この世に生を享けたことを祝福されるべきだ。祝福する人間は、ひとりでも多い方がいい。その人間が、自分とは赤の他人の、刑事であってもな」
 
もう限界です。そう訴える緒方を見据えながら先輩は言った。俺たち捜査員よりも、辛い思いをしている人がいる。事件の被害者と遺族だ。その人たちの辛さや悲しみを思ってみろ。いま口にした言葉を、お前はまだ言えるのか」
 
・「若い頃は、なんで自分だけがこんなに苦労するんじゃろ、なんて思ったこともあるよ。生きとるのは嫌で、いっそ命を絶とうかと考えたこともあるんよ。でもねぇ、長く生きとると、自分だけが不幸じゃなんて、思わなくなってきたんよ。ええことも悪いことも、みな平等に訪れるんやなぁと思うようになったんよ
 
・「私、前にあなたに、根っからの刑事なのね、って言ったことがあったでしょう。私は根っからの刑事の妻なのよ
 
「お天気雨だわ」
お遍路笠に手をあてながら、香代子が空を見上げた。
晴れた空から、雨粒が落ちてくる。雷雨でも、豪雨でもない。優しく降り注ぐ、慈しみの雨。ー慈雨だ
神場は香代子を見た。香代子も神場を見た。
瞳を交わしたまま、自然と手を取り合う。
結願寺は、すぐそこだ。
神場は香代子の手を握りしめ、雨の中をゆっくりと歩き出した。

 

まさに「はじまりはいつも雨」だね。お遍路に出たくなりました。超オススメです。

 

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慈雨 (集英社文庫)

慈雨 (集英社文庫)