中学生の頃、永井龍雲の「お遍路」という歌を聞いて「お遍路」というコトバを知った。当時、彼はデビュー当時の20歳か21歳だろう。「♪〜人生の重みを杖ひとつで やっと支えながら」「人生にいくたび騙されても じっとこらえてきた」という歌詞の重みに感動した記憶がこの本でよみがえってきた。
「警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー」そのエッセンスを紹介しよう。
・「すべての人間が、本人の意思とは関係なく、 この世に産み落とされる。望まれて生まれてくる命と、 そうでない命ーだが、命の重さは変わらん。どの命も、 この世に生を享けたことを祝福されるべきだ。祝福する人間は、 ひとりでも多い方がいい。その人間が、自分とは赤の他人の、 刑事であってもな」
・もう限界です。そう訴える緒方を見据えながら先輩は言った。「 俺たち捜査員よりも、辛い思いをしている人がいる。 事件の被害者と遺族だ。その人たちの辛さや悲しみを思ってみろ。 いま口にした言葉を、お前はまだ言えるのか」
・「若い頃は、なんで自分だけがこんなに苦労するんじゃろ、 なんて思ったこともあるよ。生きとるのは嫌で、 いっそ命を絶とうかと考えたこともあるんよ。でもねぇ、 長く生きとると、自分だけが不幸じゃなんて、 思わなくなってきたんよ。ええことも悪いことも、 みな平等に訪れるんやなぁと思うようになったんよ」
・「私、前にあなたに、根っからの刑事なのね、 って言ったことがあったでしょう。 私は根っからの刑事の妻なのよ」
・「お天気雨だわ」
お遍路笠に手をあてながら、香代子が空を見上げた。
晴れた空から、雨粒が落ちてくる。雷雨でも、豪雨でもない。 優しく降り注ぐ、慈しみの雨。ー慈雨だ。
神場は香代子を見た。香代子も神場を見た。
瞳を交わしたまま、自然と手を取り合う。
結願寺は、すぐそこだ。
神場は香代子の手を握りしめ、雨の中をゆっくりと歩き出した。
まさに「はじまりはいつも雨」だね。お遍路に出たくなりました。超オススメです。