「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「阿房列車」(内田百閒集成1)

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阿房列車―内田百けん集成〈1〉   ちくま文庫

阿房列車―内田百けん集成〈1〉 ちくま文庫

 

 

以前から気になっていたのが、この本。ウワサどおり(?)すごいっ!!!いますぐ旅に出たくなりました!用事がなくても!(笑)

 

「この書を携え、用がなくても旅に出よ!昭和27年刊行の究極の「テツ本」、
読書界の話題をさらった名著を、新字新かな遣いで復刊!「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」。借金までして一等車に乗った百閒先生、世間的な用事のない行程を阿房列車と名付け、弟子の「ヒマラヤ山系」を共づれとして旅に出た。珍道中のなかにも、戦後日本復興の動きと地方の良俗が描き出され、先生と「ヒマラヤ山系」の軽妙洒脱な会話が彩りを添える」そのエッセンスを紹介しよう。

 
阿房と云うのは人の思わくに調子を合わせてそう云うだけの話で、自分で勿論阿房などと考えていない。用事がなければどこへも行ってはいけないと云うわけはない。なんにも用事はないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う。用事がないのに出かけるのだから、三等や二等には乗りたくない汽車の中では一等が一番いい。私は五十になった時分から、これからは一等でなければ乗らないときめた。そう決めても、お金がなくて用事が出来れば止むを得ないから、三等に乗るためかも知れない。しかしどっちつかずの曖昧な二等には乗りたくない。二等に乗っている人の顔附きは嫌いである。
 
・この旅行を思いついた時の案は、お午(ひる)過ぎ12時30分に東京を出る特別急行で立って、晩の8時半に大阪に著き、著いて見たところで用事はないから、30分後の9時に大阪を出る第14列車銀河の一等寝台で帰って来ようと考えた。そうすれば大阪駅の構内から外へ出る事もないから、無駄遣いをする心配がない。しかし実際は、行ってみたら大阪駅は駅の中に殷賑(いんしん)な商店街があって、無駄遣いに事を欠かない様に出来ていたが、勿論私は無駄遣いなぞしなかった。
 
・汽車に乗るには切符がいる。旅程がきまっていれば予め切符を買っておく方がいい。しかし私には旅程はない。先に切符を買えば、私を束縛するから、何日か前から切符を買っておくと云う事は考えなかった出かけて見て、切符が買えないので乗れなかったら、又今度にすればいいと云う事にしよう。
 
・「長閑(のどか)で泰平だ。乗り遅れと云う事が、泰平の瑞兆だ。これからどの位待つのだろう」「丁度二時間です」「二時間だって。その間、こうやってぼんやりしているのか。まあいいや、ほっておこう」何をです」「何も彼もさ」「はあ」紫吹の霧の中へ煙草の煙を吹いたり、線路に落ちる雨の脚を見つめたり、全くなんにもする事がない有難い様な退屈な様な工合である。
 
・駅長が思い出したように、今日は大謀網(だいぼうあみ)がある。3時頃にあすこの突堤から船が出る筈だ。御案内しましょうかと云い出した。しかし私は考えてみたが、面白そうではあるけれど、行けばそれだけ経験を豊富にする、阿房列車の旅先で、今更見聞を広めたりしては、だれにどうと云う事もないけれど、阿房列車の標識(ひょうし)に背くことになるので、まあ止めにして置こう。
 
・「そこの、右の窓口に何と書いてある」「遺失物取扱所です」何をする所だろう」「遺失物を取り扱うのです」遺失物と云うのは、落として、なくなった物だろう。なくなった物が取り扱えるかい」拾って届けて来たのを預かっておくのでしょう」「拾ったら拾得物だ。それなら実態がある拾得物取扱所の間違いかね」ヒマラヤ山系はだまっている。相手にならぬらしい。
 
・「新潟へなぜいらしたのです」「なぜだか解らないが、来た」目的は何です」「目的はない」「何と云う事なく、ただふらりと、そう云う事もありますね」「あるね」「まあそう云う風にやって来られたとして、しかしこうして新潟に著かれた上は、これからどうなさるのです」「どうするって、どう云う事」「つまり、御計画を聞かして下さい」「そんな君、無理な事を云って。計画なぞと云う気の利いたものは、持ち合わせていないから駄目だ」「何かあるでしょう。例えば明日はどうするかと云う様な事」それは今晩寝てから考える」「新潟をどう思いますか」どうも思わない」「何か感想があるでしょう」「汽車が著いて、自動車に乗せられて、ここへ来たばかりだから、ないね」
 
さっそくお盆休みに阿房列車計画をスタートさせます!(笑)オススメです!

 

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阿房列車―内田百けん集成〈1〉   ちくま文庫

阿房列車―内田百けん集成〈1〉 ちくま文庫