「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「高円寺純情商店街」(ねじめ正一)

   


高円寺純情商店街 (新潮文庫)


タイトルは聞いたことがあるけど、読んだことのない本っていっぱいあるよね。(笑)この本もそう。直木賞受賞作品、ようやく読みました。(・∀・)


高円寺駅北口「純情商店街」。魚屋や呉服屋、金物店などが軒を並べる賑やかな通りである。正一少年は商店街の中でも「削りがつをと言えば江州屋」と評判をとる乾物屋の一人息子だった――感受性豊かな一人の少年の瞳に映った父や母、商店街に暮らす人々のあり様を丹念に描き「かつてあったかもしれない東京」の佇まいを浮かび上がらせたハートウォーミングな物語」そのエッセンスを紹介しよう。


江州屋乾物店の一日は、かつを節削りから始まる。かつを節がきれいになったところで、それを三段重ねの金のせいろに入れてふかり、やわらかくするのだが、それは創業以来、ばあさんの役目と決まっている。「江州屋の削りがつを」が中央線沿線界隈でなかなかの評判なのは、時間にすれば三、四十分のこのふかし具合によるのである。洗い上がってかつを節の顔つきとその日の天気にぴたりと合うふかし時間に割り出し、小まめに火加減を調節して絶妙のタイミングでかつを節をふかし上げた。


母親が磨き、ばあさんがふかし、父親が削り、正一がふるった粉かつをに醤油をまぶしたおかかを箸でつまみ、あったかい飯の上にのせると、ぷうんとかつをのいいにおいがした。江州屋乾物屋ならではの、削りたてふるいたての匂いだかっこむようにおかか飯を口に入れ、胃に押し込み、腸にまで届けとばかり食って食って食って、こんなうまいもんはないと食って食って食って、こんなにうまいのだから老舗の看板ごときにまけるわけはないと食って食って食って、おひつがからっぽになるまで食って、からのおひつを見ながら江州屋乾物屋のかつをがうまいからこんなに飯が食えるのだと正一はげっぷうっぷで考えた。


かつを節にカビがつきものだ。かつを節でもいいものはピンク色のきれいなカビが生え、あまりよくないものには黒っぽいカビが生えている。カビがきれいなほど、かつを節も上質なのである。カビと長い間つき合っていると、カビがかつを節のカラダを守っている皮膚のように感じられてくるのが不思議だった。こうなると面倒くさいはずのカビがいとおしくなってきて、カビがかつを節の健康のバロメーターのように思えてくる。カビが生えないかつを節を信用できない気がしてくる。ひと箱50本のかつを節を全部調べ終えるころには、この世で好きなものは何ですかと質問されたら「カビです」と答えたくなる気分に正一はなっていた。


……いいなあ…。高円寺に行きたくなっちゃった!実在するのかあ!?オススメです。(・∀・)


   


高円寺純情商店街 (新潮文庫)