私が子どもの頃のV9時代のジャイアンツの名監督といえば川上哲治氏だ。
「打撃の神様」と呼ばれ、日本初の2000本安打を達成した、名選手でもあり、名監督でもあった。その川上氏が日本のプロ野球界に最後にこれだけは言っておきたい遺言とは?そのエッセンスを紹介しよう。
・勝利の値打ちは三通りある。1 勝つことは難しい、2 勝ち続けることは、なお難しい、3 いったん手放した覇権を取り返すことは、さらに難しい。
・戦うからにはその戦いに、絶対に勝たなくてはならない。勝つチーム、強いチームにはもろさがあるものだ。「負けないチーム」こそが本当に強いチームなのだから、私は当初「必勝」といい、V3までは「常勝」といい、V4からは「不敗」、V6から「無敗」といった。
・組織の盛衰はトップの力で99パーセント決まるというが、プロ野球の世界でもまさにその通りだと思う。端的にいえば、十二球団の技術力は現実の得点差、失点差ほど大きな開きはない。その差の8割は、チーム全体の精神力の差、心の持ち方の差だとわたしは思っている。ペナントレース140試合のすべてが「監督対監督」の対決なのである。
・正力松太郎「一瞬一瞬を大事に。一瞬一瞬の積み重ねとつながりによって今日も明日もある。何十年もの歳月がある。一瞬一瞬のベストがなければ、一試合をベストにはできない。新しい次なるものは生まれてこない。選手はかわいがってやれ。しかし勝負には決して私情を挟むなよ。高いカネで獲った選手でも、よくなければすぐに辞めさせてしまえ」
・物理的な対応ーつまり選手の発掘や育成、戦力の強化は大事だが、プロ野球の戦いは「精神力の戦い」だ。
・評論家になって27年になるが、その間の面白い発見のひとつが現役時代に名選手、大選手といわれた監督ほど、審判のジャッジには文句をいわない、という傾向があることだ。微妙なジャッジによる少々のマイナスは自分の力量によって挽回する自負のようなものが、自然と身にしみこんでいるのではないか。
・近ごろ、森祇晶はどういう人ですか、とよく訊かれるのだが、わたしは「野球博士」だと答えている。選手のつくり方から野球の進め方、勝ち方を含め、野球のすべてを知り尽くした人だ。現役時代から本とノートを抱えた勉強家で、どのピッチャーがいつどんな球を何球投げたか、その失敗と成功のすべてががっちり頭に入っているような人で、経験や知識を自分に降り積もらせて、そのロジカルな思考の中から知恵をしぼって戦っていく。だから、野球に関しては同じ失敗を二度としない、決して繰り返さない堅実派、実務派のベテランだ。
・なぜV10ができなかったのか。それはわたしにしての油断だ。戦力の変化や下降などいろいろな要因はあるが、当事者の監督であるわたしに、スキがないつもりでスキがあったのである。
さすが!前人未到の九連覇を成し遂げた名監督。どの言葉も含蓄が深い。すべてのビジネスマンに贈る。オススメです。