ノーベル文学賞候補にもなった安部公房の作品に初めて出会ったのは「棒になった男」だ。(・ω<)その発想と着眼点と描写とストーリーに、衝撃を受けたことをいまでも覚えている。
さて、この本。新聞広告で見て、またまた衝撃を受けた。「君は、僕の足もとを照らしてくれる光なんだ――」その作家は、夫人と別居して23歳年下の女優・山口果林との生活を選んだ。そして1993年1月、安部公房は、女優の自宅で倒れ、還らぬ人となった。二人の愛は、なぜ秘められなければならなかったのか? すべてを明かす手記。没後20年、初めて明かされる文豪の「愛と死」。そのエッセンスを紹介しよう。
・安部公房の話は楽しいばかりではなかった。「だんだん書くことが辛くなる」と新しい小説の執筆を前にして語った。ただひたすら深夜の高速道路を走り続け、ブラックホールに飲み込まれてしまいたい気分になるとも言っていた。沢山の賞を獲得しつくした作家の言葉に、私は衝撃を受けた。底知れぬ虚無感を垣間見た。
・未熟な私のどこに、安部公房は引きつけられたのだろう。初めての恋人との別れで、激しい恋愛感情の酔いは二、三年で冷めると同期の友人から教えられていたし、まだ燃え尽きていないとして、いずれ安部公房の情熱も冷めるのだろうと。冷静に分析する自分もいた。それまで安部公房から得られるものは、貪欲に吸収したい!自身のキャリアも高めたいというのが、当時の私の思いだった。
・NHKのヒロインは清純無垢でなければならない。安部公房との交際が暴露されたら、主役はおろか、私の前途が消えてしまいかねない。一番恐れる事態だ。不安と当惑。この期間だけでも交際は止めなければと自分に言い聞かせた。
・家庭を壊すとか、こんなに永久的な関係になることなど頭に浮かばなかった。会っている時の一瞬一瞬を感じるだけで精一杯だった。「さよならの別れのいつも心の底に持っている関係でいようね」と話し合ったことがある。そして嫉妬心とは完全に無縁な自分になろうと務めた。安部公房が結婚した年に、やっと私は「オギャー」と産声を上げた年の差なのだ。
いや〜冒頭の写真もスゴイけど、赤裸々な不倫話にもかかわらず、二人のまっすぐな愛が伝わってくる。青春を感じる。人を愛するって素晴らしいことなんだね。オススメです。(・ω<)