「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「冬の運動会」(向田邦子)

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全作品読破を狙っている向田邦子さん。この本、タイトルは聞いたことあったけど傑作だね〜!誰も思い当たる節があるんじゃないかー!ワタシだけかなー!?(笑)
 
 
高校時代の万引事件のためエリート家庭から落ちこぼれた菊男は、ガード下の靴修理店の老夫婦のもとに入りびたっていた。そんなある日、ふとしたきっかけから、菊男は謹厳な祖父や、一流ビジネスマンの父のもうひとつの姿を知ってしまう。人間の本質と家族のあり方を追求して話題を呼んだ名作ドラマの小説化」そのエッセンスを紹介しよう。
 
・「靴、見りゃ、その人がわかる。ひと月履いた靴見してくれりゃね、その女が、所帯持ちがいいか、だらしがねえか、安産型か、冷え性か……」
 
・なぜ、日出子の靴を持ち帰ったのか。なぜ、こんなとき修理を始めるのか、自分でもわからなかった。ただ、やさしいものにふれていたい……。そしてそれとは裏腹に、汚れたもので自分の手を汚したい……。「胸に気持のかげがある」と言った日出子の声を、菊雄はもう一度聞きたいと思った。
 
・ムキになった走っていると、子供の頃の運動会を思い出した。秋晴れの日曜日。紙の万国旗で飾られた運動場を、小学生の菊雄が懸命に駆ける。勇ましい音楽も父兄席の声援も、菊雄のためにあった。あの頃は裏も表もなかった。のびのびして、自然だった。まわりのものを信じて、菊雄はまっすぐ前だけを見て走っていた。ーもう一度あのときの自分にもどりたい……。だが、季節は冬。運動会は終わった。
 
あや子は夫の顔を見つめた。その目は主婦の目ではない。女の目だった。
 
・そんな日出子に、菊雄は見とれる。日出子の視線を追って、菊雄も絵を見上げた。生まれたときから住んでいる家だ。見あきたはずの絵である。それなのに今、日出子と一緒に眺めると、はじめて見る絵のような気がした。絵だけではない。壁の色までいつもと違って見える。なにもかも新鮮だった。愛というのは、こういうことなのかもしれない……。
 
秘密の糸でバラバラに操られているマリオネット、その糸が一本により合わさったとき、この家は大きくゆさぶられるのではないか?菊雄は、その日が意外に近いような気がした。
 
・家が古いせいか、柱や壁はかつおぶしのような匂いがする。じいちゃんはこの匂いが好きだったんだ……。菊雄は、祖父の気持がやっとわかったような気がした。祖父は、だらしなく散らかったこの人間臭さを愛したのだ。この家なら、どんなにみっともないことでも、平気で言える。裸の自分に戻って、弱音が吐ける……。
 
・「めぐり合わせが悪くて、何やってもうまくいかない。家族は足引っ張るし、恋人には裏切られるし、もう、生きてるの、いやになって、ボンヤリしてるときに、『よしよし』って背中さすってくれる人がいたら……いろんなこと忘れて、とにかく今日一日、誰かを信じて安らかに暮したい。そう思ったのよ」
 
まさか、十日町が登場するとは!!!びっくりだ!家族ってこういうものかも。昭和から平成に代わり、これが本来の、というか実際の家族の姿かもしれない。超オススメです。(・∀・)

 

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