「累計200万部!1980年上期、直木賞受賞作を含む13編。何と超異例! 「小説新潮」連載中に直木賞受賞となった連作小説。浮気の相手であった部下の結婚式に、妻と出席する男。おきゃんで、かわうそのような残忍さを持つ人妻。毒牙を心に抱くエリートサラリーマン。やむを得ない事故で、子どもの指を切ってしまった母親など――日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、狡さ、後ろめたさを、人間の愛しさとして捉えた13編。直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録」そのエッセンスを紹介しよう。
「かわうそ」
・細い夏蜜柑の木に、 よく生ったものだと思うほど重たそうな夏蜜柑が実っているのがあ る。結婚した当座の厚子はそんな風だった。 さすがに四十を越して夏蜜柑も幾分小さめになったようだが、 ここ一番というときになると、厚子は上に持ち上げて、 昔の夏蜜柑にするのである。
・デパートの屋上でかわうそを見たのは、何年前のことだったか。 水に浮かんだ木の葉を魚にでも見たてているのか、 わざと物々しく様子をつくってぶつかっていく。そうかと覆うと、 ぽかんとした顔をして浮いている。厚かましいが憎めない。 ずるそうだ目の放せない愛嬌があった。 ひとりでに体がはしゃいでしまい、 生きて動いていることが面白くて嬉しくてたまらないというところ は、厚子と同じだ。
・学校の休み時間と同じであろう。勉強のあい間に、 五分かそこらだから、仲間がいるからボール遊びも面白いのだ。 一日中遊んでよろしいといわれ、ボールをあてがわれても、 たったひとりでは、ただのゴムの球体に過ぎない。 厚子を気ぜわしいと思うこともないではないが、やはり、 このうちにかわうそは一頭いたほうがいい。
「三枚肉」
・多聞が言った。「牛肉ってやつは不思議だね。 草を食うだけなのに、どうしてこんな肉や脂肪になるのかね」 牛肉のほうが、凄味があってしたたかだ、と話しながら、 三人は肉を食べた。なにもないおだやかな、 黙々と草を食むような毎日の暮しが、振りかえれば、 したたかな肉と脂の層になってゆく。肩も胸も腰も薄い波津子が、 あと二十年のたてば、幹子になる。幹子がなにも言わないよに、 波津子もなにもしゃべらず年をとってゆくに違いない。
「だらだら坂」「はめ殺し窓」「マンハッタン」「犬小屋」「 男眉」「大根の月」「りんごの皮」「酸っぱい家族」「耳(「 綿ごみ」改題)」「花の名前」「ダウト」など。
やっぱり向田邦子は、エッセイも小説もいいねえ。何度も読み返したいねえ。超オススメです。(・∀・)