「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「奇跡の人 The Miracle Worker」(原田マハ)

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奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)

奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)

  • 作者:原田 マハ
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 文庫
 

いや〜〜感動したっ!!!今年読んだ本のベスト3入りは間違いなしだね。途中から読むページが止まらなくて一気に読んでしまった……。日本版ヘレン・ケラーサリヴァン先生の物語だけど、こっちの方が感動する。おそらく!(・∀・)

 

盲目で、耳が聞こえず、口も利けない少女が弘前の旧家にいるという。明治二十年、教育係として招かれた去場安は、その少女、介良れんに出会った。大きな苦難を背負った少女と、人間の可能性を信じて彼女の教育に献身する女教師。ふたりの長い闘いがはじまった――。著者、渾身の感動傑作!」そのエッセンスを紹介しよう。

 

・これから、自分が会うはずのその人はーいったい、どんな人なのだろうか。どんな音を聴かせてくれるのだろうか。このさき、あの音を失うとしたら、それは、僕らの国のもっとも佳き芸術のひとつを失うことになる。けれど、残念なことに、あの音は、確実に失われていく音なんだ。あの人には、後継者がいない。あの人のように、あんな音を出せる人は、日本どころか、世界中、もうどこにもいない。あの人が生み出す音をーつまりあの人をこそ、僕は、この国初の「生きた人間の文化財にしてやりたい。あの人の存在は、国の宝です。そうだな、いってみればー人間国宝とでも呼びたいような。


伊藤博文からの手紙。「私の友人に、男爵の介良(けら)貞彦という男がおります。現在、彼は、彼のご長女に関して、深く悩み、苦しんでおられます。れん嬢は、現在6歳。普通の人と、だいぶん違うのです。違う要素は、3つあります。一つ。れん嬢は、盲目です。まったく、見えません。二つ。耳が聞こえません。三つ。口が利けません。いかがでしょうか?そんな少女の教育に、あなたは、はたして、ご興味をもたれますでしょうか。


・安の目には、はっきりと見えた。少女は、そのとき、うっすらと笑っていた。その無垢な輝き。かすかにめまいを覚えるほど、まぶしい少女だった。強烈な光を放つ人だった。


目が見えず、耳が聞こえず、口も利けない彼女は、屋敷の中に居場所はなく、塵溜めのようなこの蔵の中に押し込められて、三歳の時分から六歳のいまにいたるまで、かれこれ三年も暮らしているというのです。いいえ、生かされている、と言ったほうがいいでしょう。死にはしない程度に生かしておけばいいのだ。日の当たらない、澱んだ空気の中に放置され、眠りたいだけ眠り、好きなときに起きて、食べたいときに食べる。すべて手づかみで、あるいは食器に直接口をつけて食べるのです。髪も、服装も、ぼろぼろに乱れて、まるで物乞いの子供です。気に入らないことがあれば、狂ったように暴れ、わめき、かみつきます。れんは、畏れ多くも、津軽屈指の名門、介良貞彦男爵の令嬢。そして、それ以前にひとりの人間なのです。人間としての尊厳を、彼女に取り戻すために。どこまでも、彼女とともに、私は闘っていきましょう。


「はい」と「いいえ」、「ある」と「ない」。もっとも単純で、けれどもっとも大切なこれらの「概念」を理解させること。それは、なんという大きな超え難い山なのだろう。

 

・私は確かに視力に恵まれませんでしたが、神様は、それとは違う能力を私にお与えくださったと、振り返ってみると、そんなふうにも感じています。ましてや、れんは三重苦の娘です。私は、毎日、彼女に備わっているはずの「別のかたちに変化した能力」を注意深く探っています。それが、いったい、どういうものなのか、まだわかりません。けれど、私には、これだけはわかるのです。彼女にはそれが備わっていると。彼女は、少女のかたちをした可能性のかたまり。いまはまだ、固く閉じたつぼみです。けれど、季節が巡り、日の光を浴び、雨を受ければ、やがて花開く運命にあると私は信じています。「私には、わかるのです。れんは、不可能を可能にする人。……奇跡の人なのです」

 

・なんて強い子なのだろうか。私だったら、きっと耐えられなかっただろう。夜ならば、やがて朝がくる。けれど、あの子は永遠に続く闇の中を、真夜中よりも深い無音の世界を、たったひとり、手探りで、ここまできたのだ。いかなる境遇をを乗り越えるまっすぐな魂を、ひたすらに生き抜く強さとを、あの子は持って生まれてきた。何のために?ー知るために。ああ、私は、私は。私は、あの子に知らせたい。この世界の広さ、うつくしさ、まばゆさを。この世界に存在するもの、ひとつひとつの名前。空。山。花。鳥。太陽。月。朝。昼。夜。腕。手。指。足。体。笑顔。涙。あたたかい。冷たい。やわらかい。すがすがしい。気持ちよい。怖い。痛い。悲しい。せつない。眠る。目覚める。食べる。歩く。走る。笑う。怒る。泣く。考える。思う。愛する。祈るー。この世に生きとし生けるもの。存在するもの、しないもの。目に見えるもの、見えないもの、心で感じるもの。ひとつ、ひとつに、名前がある。それらのものを、かたつづくりたもうたのは、神だ。そして、名前を与えたのは、人間なのだ。私は、そんなあたりまえのことをーあたりまえの奇跡を、教えたい。れん。あなたに。

 

・負けない。絶対に負けない。負けないで、れん。絶対に負けないで。あなたを、何も知らなかった頃に引き戻そうとする退化の力に。あなたはもう、何も知らない子供じゃないのよ。あなたは、これから、この世のすべてを知るのよ。誰よりも、開かれた人になるのよ。

 

あの子は、樹木なのです。樹木は、聞くことも、見ることもない。話すことも、もちろんかなわない。けれど、太陽の光を受け、風に枝をそよがせながら、全身で表現しているのです。ー生きる喜びを。あの子は、まさに、若葉萌えいずる樹木そのもの。青空へ、光射すほうへと、枝を放ち、どんどん伸びていく。その力、その輝き。すべてが若木のよう。さらに、樹木にはない底知れぬ可能性を、あの子は持っているのです。あの子には、感情がある。学ぶ能力がある。人間らしく生きていく権利がある。言葉を知り、それを操って、自立する必要がある。人を愛し、信じて、誰かのために祈る。そういう人に、あの子はなる。それが、介良れんという人間の運命なのだ。れんは、不可能を可能にする人。……奇跡の人なのです。

 

ひとつめの〈奇跡〉は、障碍者の進む道が限られ、女性の幸せがひとつの枠に押し込められていたこの国で、れんと安がその仕組みから外に出ようとしたことである。ふたつめの〈奇跡〉は、言葉である。言葉をもって、伝えたい思いを、伝えたい相手に伝える、ということである。そんな当たり前のことがどれだけの奇跡の上になりがっているか、言葉で思いを伝えられることがどれほど幸せなことか。奇跡の人とは、三重苦を克服したヘレンのことだと思っている人も多いようだが、実際には〈奇跡をもたらした人〉サリヴァンを指す。これは実話の舞台を明治の津軽に置き換えるというフィクションだからこそ書き得た、崇高で強靭な物語なのである。(大矢博子・書評家)


「藤本吉右衛門とれんとの出逢い」のくだりは涙が出て仕方がなかった……(T_T)。「女ボサマ、狼野キワ」「津軽じょんがら節」「日本の家族制度」「私宅監置(座敷牢)」

など。

 

「昭和29(1954)年2月 青森県北津軽郡金木町」「明治20(1887)年4月 青森県北津軽郡青森町」「明治20(1887)年6月 青森県北津軽郡金木村」「昭和30(1955)年 東京都日比谷公園」の4つの時系列で物語は進む東北本線が黒磯までしか通っていなかった時代の弘前まで馬車で行くって……。アメリカよりも遠かったってなんとなくわかるよね……。感動の一冊!ゼッタイに読むべし!超オススメです!!!(・∀・)

 

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奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)

奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)

  • 作者:原田 マハ
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 文庫