「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「紙屋ふじさき記念館 物語ペーパー」(ほしおさなえ)

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紙屋ふじさき記念館 物語ペーパー (角川文庫)
 

昨年からほしおさなえさんの本を全作品読破する!と決めて、だんだんゴールが近づいてきた。……ちょっと淋しい……。「紙屋ふじさき記念館」シリーズの第二弾。どの作品も実際にあったドキュメンタリーのように登場人物の個性が際立っている。伝統と歴史に基づいたテーマの中に多くの人に共感する日本人であることのアイデンティティ、生と死、親子関係、三世代のドラマが内在している。この本もそう。父を思い出しました。この筆力はスゴいなあ……。

 

「紙だから、伝わる気持ちが強くなる。 紙小物がつなぐ絆の物語」そのエッセンスを紹介しよう。
 
・江戸時代、美濃和紙は幕府と尾張藩御用紙となる。明治維新によって、それまで必要だった免許制度がなくなり、製紙業が急増。国内の需要の増加と海外への進出もあって、大きく発展、最盛期には三千から四千軒の紙漉き職人の家があったのだという。この町は紙で財を成した豪商が作った商家町だった。現在も残っている江戸時代、明治時代に建てられた家の大部分は紙商を営んだことがあるらしい。その富の象徴がうだつなのだ。
 
・だが明治24年の濃尾震災、太平洋戦争による物資や人材の不足、洋紙にとって代わられたこともあり、昭和30年代には1200軒あった生産者が昭和の終わりには40軒、現在では15軒まで減ってしまった。2014年、美濃和紙のなかで最高の品質をもつ本美濃紙はその伝統技術を評価され、石州半紙や細川紙とともにユネスコ無形文化遺産に登録された。ふたたび和紙に注目が集まり、こうして和紙の町として観光客が訪れるようになったのだ。
 
・「本美濃紙を漉ける職人のなかには、70年も紙漉きをしてきたのに『いくつになっても一年生』って言う人もいます。みんな伝統に誇りを持っているんですよ」
 
・和紙の需要は減ったけれど、いまは若い作り手が自由に紙を漉き、自分の表現にしている。それは、紙漉きの伝統があるからこそできることなんだ。あたらしいものを作ることは紙漉きに宿る夢を掘り起こし、実現する作業なのかもしれない
 
・「守らないといけない、って気がして来たんだ。これは和紙のための戦いだ。だれかと争ったり、怒ったり、闇雲に拳を振るうことじゃない。和紙が必要だ。これを守らなくちゃいけない。みんなにそう思わせなくちゃいけない。和紙はすごい、みんな知らないだけで、だれだって目にしたらきっとすごいと感じる」
 
え?ええ?えええー?見るとポップの横に、父の『東京散歩』が面出しになっているではないか。嘘?この本はもう品切れだったんじゃ……。どうやらいつのまにか古書のコーナーにはいりこんでいたらしい。わからないけど、父の本を好きな人がいるってことだ。しかも東京散歩』だけじゃない。父の出した本はほぼすべてそろっているんじゃないか。
 
・父の本。薫子さんや藤崎さんも読んでくれていた。いまでも父の本を読んでくれている人がいる。大事にしてくれている人がいる。不思議だった。父はもうどこにもいないけれど、本という形になることで言葉が勝手に生きのびて、いまもどこかに流れついているのだ。不思議なことだ。すごいことだ。ふわふわと舞いあがるような気持ちで有るき続けた。
 
父の文章をそのまま入力していく。父はこういう言葉遣いをするのか。この言葉は漢字にして、この言葉はひらがなにする。こういう息遣いで句読点を打つのか。ただ読んでいただけのときはわからなかったことがわかる。父の呼吸をなぞっているようで、心がどんどん研ぎ澄まされる。父の姿が頭のなかによみがえってくる。書斎の自分の椅子に座り、机に向かっていた父。その姿が急に目の前に浮かび、だがしっかり見ようとするとぼやけて消えていく。ときどきキーを打つ手を止めて、目をつむり椅子の背にもたれた。
 
・むかしいっしょに屋上に来た祖父母や母、これまで知り合った人が少しずつ他界していく。若いころは知人が増え、自分の世界が広がってくような気がしていたが、年をとってくるとその世界がだんだん小さくなる。四角い屋上にいて、年をとればとるほどビルが高くなり、先が細くなり、屋上の面積が小さくなるのだ、と。一瞬だけ、もういない父の身体にはいりこんで、父の目で世界を見ていたような気がした。どきどきしていた。澄んだ闇のようなものた身体のなかに広がっている。胸は高鳴るけれど、熱くはなく、むしろひんやりしていた。
 
大丈夫だよ。みんなのところに行ってごらん。百花、人はみんなひとりなんだ。だから生きているあいだは、まわりにいる人といっしょに過ごそう。耳の奥に父の声が響く。お父さんが守ってくれているのかもしれない、と思った。藤崎さんや薫子さん、綿貫さん。それに和紙。全部お父さんが引き合わせてくれたのかも。父といっしょに見た白く細い月を思い出す。ねえ、お父さん。わたし、いまはさびしくないよ。出会うものが素晴らしすぎて、自分の小ささが悲しくなったり、どきどきしたり、悔しかったり、胸が苦しくなったりもするけど、生きてることが、すごく楽しい崖っぷちぎりぎりに立ってるみたいだ。お父さんと会う前のお母さんもこんな感じだったのかな
 
美濃手すき和紙の家  旧古田行三邸
 
『文字箱』『地域猫通信』いいなあ。あったらいいなあ!「東京散歩」「屋上の夜」(吉野雪彦)今月出る最新刊が待ちきれない。オススメです!(・∀・)

 

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紙屋ふじさき記念館 物語ペーパー (角川文庫)