「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「道化師の楽屋」(なかにし礼)

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道化師の楽屋 (新潮文庫)

道化師の楽屋 (新潮文庫)

 

 日本を代表する作詞家、なかにし礼。ふっと思いだすだけでも「ドリフのズンドコ節」「北酒場」「フィーリング」など、バラエティに富んだ作詞が多い。

 

さて、この本。「生まれ故郷満州への想い。シャンソンの訳詩に没頭した青春時代。売れっ子作詞家の栄光の陰に隠された兄との壮絶な葛藤。石原裕次郎・慎太郎、村松友視、高橋治、高橋三千綱美空ひばり美輪明宏黒柳徹子らとの交友…。道化師の芸ほど不謹慎で猥雑なものはないが、その楽屋ほど厳粛で純潔なものもない。自らを道化師に譬え、作家の素顔と舞台裏をあますところなく描いた傑作エッセイ集」そのエッセンスを紹介しよう。

 
並木路子の歌う『リンゴの唄』は、戦後の日本人の心を支えた希望の歌として名高いが、あの歌を引揚げ船の上で聴いた時のショックは今もって忘れられな。私たち旧満州(現・中国東北部)からの引揚げ者は、避難民収容所での1年2ヶ月にわたる不自由な生活の末に、やっと本国への帰還が許され、アメリカ海軍のフリゲート艦に詰め込まれて、玄界灘を渡っていた。私はまだ8歳になったばかりだったが、大人たちの、祖国へ帰る、という胸躍る気分や、また、無一物で投げ出された身として、この先果たしてやっていけるのかという不安を分かち合うことぐらいはできた。子供の私の胸も期待にふくらみ、不安にふるえていた。
 
そんな時に『リンゴの唄』を聴いた。引揚げ船の船員さんは「今、日本ではね、敗戦の悲しみを忘れて、みんな頑張っているんだよ。この歌を歌いながら、焼け跡から立ち上がっているんだよ。だから、君たちも元気を出さなくてはいけないよ」と言って、歌ってくれた。
 
赤いリンゴに 唇よせて
黙って見ている 青い空
 
なんという明るい歌だろうと思ったが、すぐそのあとに、立っていられないような眩暈(めまい)を覚えた。祖国日本の人たちは、こんなにも明るい歌を歌って、早くも再出発をしているのだろうか。君たちの仲間が、まだこうやって、真っ暗な海の上を、着の身着のまま、食うや食わずでさまよっているのというのに、なぜ平気で、こんな明るい歌が歌えるのだろうなぜもっと心配そうな顔をして私たちを待っていてはくれないのだろうという甘えにも似た不安が胸いっぱいにこみあげてきた。
 
・小学校1年の音楽の時間に、『ふるさと』という唱歌を習った。
 
うさぎ追いしかの山 こぶなつりしかの川
夢は今もめぐりて 忘れがたきふるさと
 
この歌の意味が私にはほとんど分からなかった私が生まれたのは牡丹江(ぼたんこう)という新興の商業都市街を一歩出ればそこはコーリャン畑であり、また目を転ずれば向日葵畑がはるか地平線にまでつづいていた。空は色を抜き取ったように白く、風はどこまでも乾いていた。真っ赤な夕陽が音をたてて沈んだ。夜は白夜で、真夜中になっても空は暗くならなかった。どこを見ても、うさぎ追いしかの山やこぶなつりしかの川はないのだから。私はこの『ふるさと』という歌を歌いながら、日本というものを夢想した。そして「わすれがたちふるさと」という言葉は、私の心の中に、祖国日本への憧れを育てていった
 
昭和が終わった日、私の中の歌も終わった意欲や情熱がなくなたというより、それを支える土台そのものが崩れ去っていくような寂寥感が胸に迫ってきたのだった。歌を書く理由がなくなってしまった。とにかく私に歌を書かせていたのは昭和という時代だったのか、という感慨が激しく押し寄せてきた。
 
昭和、そう昭和だ。私が愛してきたのも、憎んできたのも昭和という時代だった私はこの時代の中に生み落とされ、この時代によって翻弄され、この時代によって救われた。私の書いた歌はすべて、昭和という時代への愛と恨みの歌であり、失われた故郷満州を思う望郷の歌であり、いつまでも私に他国者意識を感じさせないではいない祖国日本への恋歌であった。だから、平成という時代は、私にとっては、昭和の余韻にしかすぎない。エピローグと言ってもいい。
 
「道化師のルーツ」「道化師の交遊録」「道化師の日常」「道化師の劇場」「道化師の旅」「結婚教」「私、村松友視の味方です」「天才アラーキーの天才」「詩人の魂(長崎ぶらぶら節など。
 

まさに昭和の時代ってそうだったんだ、とあらためて感じる一冊。「歌は世につれ」だよね。オススメです!♪

 

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道化師の楽屋 (新潮文庫)

道化師の楽屋 (新潮文庫)