「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「定本 日本の喜劇人 喜劇人篇」(小林信彦)

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日本の喜劇人 (新潮文庫)

日本の喜劇人 (新潮文庫)

 

 小学校の卒業文集で「尊敬する人」に書いた萩本欽一。そう、当時大人気のコント55号が大好きで「お笑い芸人」という言葉がなかったその頃、コメディアンになりたかった。(笑)


さて、この本は、すごい!秀作だっ!今年読んだ本のベスト10入り間違いなし!歴史の教科書にも載っていない「日本の喜劇人」の歴史とエピソード満載。そのエッセンスを紹介しよう。

 

・ずいぶん、長いあいだ、私は、興味本位ではない、日本の喜劇人についてのまとまった文章を書きたいと願っていた。その理由は、非常に単純で、私は〈おかしい〉ものなら、舞台映画、テレビを問わず、貪婪(どんらん)に見てきたし、いまでも、そういう気持ちを持ちつづけているつもりだからだ。だが、私には、ほどを知らないところがあって、喜劇的な空間とか映像だけでは物足りずに、それらを創り出している人々ーつまり喜劇人たちの素顔を見たいいや、できれば彼らの生理のようなものをじかに掴んでみたいという欲望にとりつかれてしまった。
 
・小学生のころに見た古川緑波にはじまるこの本は、私の、多くの喜劇役者との出逢いの記録であり、証言といってもいい。それは、より具体的にいえば、喜劇人と呼ばれる人々の個性についての考察である。生れ、育ち、キャリア、発想、芸風、笑わせるテクニック、世渡りの技術、自己演出の才能までもを含んだ意味をもっているのだが、各人ごとに、具体的な記述をつみ重ねてゆけば、おのずから、昭和のー主として昭和20年以降だがー喜劇の歴史にもなるのではないか、と考えたわけである。
 
古川ロッパの〈声帯模写がいかに達者だったかは、徳川夢声「いずれも絶品」と評しているのでわかろうが、昭和7年8月8日に夢声が酒と睡眠薬の飲み過ぎで倒れたとき、ロッパが夢声がやるべき40分間の放送を夢声の声色で埋めて、事故を聴取者に気づかせなかったという、信じがたい事実がある。
 
・まず東宝新劇団の一員としてキャリアを始めている森繁久彌は、いわゆるコメディアンになる気はなかったことである。あったとしたら、昭和11年当時なら、まず浅草へ行っている。森繁は〈世に出る〉ためは、好んで喜劇的演技をみせた。気づいてみると、遅れて現れた森繁は、すでに30年以上、スターの座を保っている。二枚目半というタイプを自ら開拓したのであり、〈喜劇によし、悲劇によし〉というユニークな役者として大成した。『三等重役』から『夫婦善哉』へのチェンジがーすなわち、上質のコメディアンから性格俳優への変化が、あまりに鮮やかだったので、その後の日本人の喜劇人の意識にとんでもない異変を起こさせたである。
 
 
森繁の武器はいろいろあった。口跡の良さ、関西弁と東京弁を自在に使い分けること(これは、めったにできることではない)、アドリブを芸にまで高めたことその他その他である。同時代のコメディアンにとって、こんな気になる存在はないだろうと思われる。
 
・トニーの魅力は何よりも、あるリズムにのって、罵言や下品な言葉を吐きつづけ、観客に愛されようとする素振りを少しも見せぬところにあったのである。
 
・コメディアンに限らず、役者には、二つの才能があると思う。
 
1 もって生まれた才能
2 その〈才能〉を活かすべき場所をさがす(つくり出す)才能
 
植木等谷啓は1の才能が豊かであり、2は奇妙なほど欠如している
 
逆に1に対して2の旺盛なハナ肇は実質的にはよい作品にめぐまれ、植木映画の質的低下とすれちがうようにして、昭和39年の『馬鹿まるだし』をきっかけに松竹の山田洋次監督との仕事がはじまった。
 
伊東四朗はギター、歌、バレエなど、ショウ番組の必要な要素をかなりコナせた。歌は江利チエミがびっくりしたほどである。すなわち、伊東四朗によって、ある状況がつくられ、戸塚睦夫を出没によって状況がくるくる変る。それに合わせて、三波伸介は怒ったり、ゴマをすったりする。てんぷくトリオのコントはおおむね、これにのっとっている。
 
コント55号のコントにあるのは、二人の決定的な対立であり,断絶である。正気の世界にいる坂上二郎のところに、狂気の世界からきた萩本欽一が現れて、徹底的に小突き回す。それは、とうていマスコミが名付けたような〈アクション漫才〉というようなものではなく、イヨネスコ的世界であり、その狂気は主として萩本の内部から発していた
 
藤山寛美の借金の論理「私には演劇、それも喜劇という男子一生の仕事があるのやないか。……ところが、この仕事に賭けているので苦しいことも多い。……苦しいイヤなことがあると酒を飲む。酒を飲むと、そばにおなごはんがいる。いるのつい親切にしたくなる。……親切にすると先方もそうなる。そうなると親切同士たのしく飲みたくなる。……親切から親密になる。その代償として借金が増える。借金がどうしてできるのか。……簡単です。収入より、支出が多くなることです。やがて、借金を取りにくる人よりも、借りてくる私のほうが元気になってきた」
 
・昭和45年ごろからコントを演じる回数が少なくなり、やがて司会的な仕事が多くなった萩本は、彼が翻弄してきたテレビ、テレビ局、視聴者を冷静に観察していたとおぼしい。彼は役者たらんとするよりも、ギャグを作るのが好きであった作家的資質の多いタレントだけに、テレビの本質を、感覚的に把握するのは、非常に早く、かつ鋭かった。天才的コントタレントだった
 
・1961年当時楽屋内で「二大出たがり屋」と言われていたのが前田武彦大橋巨泉で、裏方なのに、やたらに画面に出たがった。ところがでたがるわりには面白くないので、困ったものだと評される。ところが、出たがり屋界の惑星ともいうべき人物が同じ年の10月からシャボン玉ホリデーに入ってきた。「おとなの漫画」の作者・青島幸男である。
 
植木等はみずから〈貧乏人の倅〉を自称し「どん底でも平気だ」と語っていた植木等を知る人は貧乏している時から底抜けに明るくて、私生活がわからなかった」という。
 
クレイジー・キャッツの面白さは、1 が生の舞台 2 がテレビ 3 が映画。と僕は繰り返し書いている。映画がもっともつまらない。皮肉なことに、これは、クレイジーキャッツとは正反対の立場にいた藤山寛美にも共通するのである。
 
・1964(昭和39)年 『週刊文春』のベスト・テン
 
8 渥美清
 
別格 曾我廼家五郎(故人) 小沢昭一
 
 
渥美清には当時から他人を寄せつけない雰囲気があった。言い換えれば〈近寄りがたい男〉である渥美清のまわりには透明な膜があるようで、親しくなるにつれ、そのことを痛感するようになる。彼が片肺の人というのは〈あっちの世界〉の人はみんな知っていた。だからこそ、彼は体調について迂闊な言葉は吐けない。役者・芸人・タレントにとって〈体調が悪い〉という噂ほど危険なものはないからだ。
 
・信じられないかも知れないが、当時の大衆の多くは〈ギャグ〉という言葉を知らなかった。〈ギャグ〉は専門用語であり、映画界かテレビ界の一部でしか使われていなかった。
 
渥美清「狂気のない奴は駄目だ。それと孤立だな。孤立しているのはつらいから、つい徒党や政治に走る。孤立してるのが大事なんだよ」
 
渥美清の話の面白さは天才的であった。あとにも先にも、こんな話術の天才はみたことがない。ことに、座談は名手といってよかった。まず、声がいい。あの顔で、声だけ二枚目というのが、当時は面白かった。が、なんといおうと、形容が面白かった。「さくら、おまえだって、目まで毛糸がほつれて垂れ下がっちゃったような犬のいる家に住みてえだろ」「烏賊の✕✕✕✕みてえな女だもんな。ああいう女とは、褥(しとね)を共にする気にならないねえ。(僕の顔を窺(うかが)うようににして)……ね?」これで笑いが爆発する。発想そのものが変(ファニー)なのである。だから考えて面白くするのではなく、〈……みたいな〉〈……みてえな〉と次々と繰り出してくる。ひらめきが止まらない趣さえあった
 
・「断るほど良い仕事がくるんだよ。断って仕事がこなくなったら、こっちの人気が落ちているんだ。落ちているなら、断っても断らなくても、同じことだろ。断っても、次に良い仕事がくれば、こっちが上がっているのさ。おれは本篇(メインの長い映画)しか受け付けないよ。本篇で失敗したら、やり直せばいい」
 
特に、「丸の内喜劇の黄金時代 古川緑波」「THE ONE AND ONLY榎本健一」「森繁久彌の影 伴淳三郎 三木のり平 山茶花究 有島一郎 堺駿二 益田喜頓」「占領軍の影 トニー谷 フランキー堺」「道化の原点 脱線トリオ クレイジー・キャッツ」「醒めた道化師の世界 日活活劇の周辺」「クレイジー王朝の治世」「上昇志向と下降志向 渥美清 小沢昭一」「大阪の影『てなもんや三度笠』を中心に」「ふたたび道化の原点へ てんぷくトリオ コント55号 由利徹」「藤山寛美 伝統の継承と開拓と」「最後の喜劇人・伊東四朗」「日本の喜劇人・再説」「高度成長の影 萩本欽一」「おかしな男 渥美清など。
 
三波伸介が生きていたら……喜劇界も変わっていただろうなあ。好きだったなあ。今、最後の喜劇人・伊東四朗を見られるのがウレシイ。お笑い大好きな方、必読っ!超オススメです!(・∀・)♪

 

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日本の喜劇人 (新潮文庫)

日本の喜劇人 (新潮文庫)