この本は貴重だ!よく書き残してくれた!あと数十年経てば、取材できなかったのかもしれない…。
「著者の田中康弘氏が、交流のある秋田・阿仁のマタギたちや、各地の猟師、山で働き暮らす人びとからから、実話として聞いた山の奇妙で怖ろしい体験談を多数収録。話者が自分で経験したこととして語る物語は、リアリティがあり、かつとらえどころのない山の裏側の世界を垣間見させてくれる。山の怪談。現代版遠野物語」その不思議な世界の一部を紹介しよう。
・山の不思議な出来事で一番多かったのは、やはり狐に関してだ。雪深い北東北が狐話が格段に多い。定番の池沼にはまり込む話から何かを盗まれる話、果ては死に至る話までのほとんどが狐が絡む。
・この本で探し求めたのは、決して怖い話や怪談の類いではない。言い伝えや昔話、そして民話でもない。はっきりとはしないが、何か妙である。または不思議であるという出来事だ。
・日本の山には何かがいる。
生物なのか非生物なのか、固体なのか気体なのか、見えるのか見えないのか。
まったくもってはっきりとはしないが、何かがいる。
その何かは、古今東西さまざまな形で現れ、老若男女を驚かす。
誰もが存在を認めているが、それは何かは誰にも分からない。
敢えてその名を問われれば。山怪と答えるしかないのである。
・「そうだな、例えばよ、五人で列になって猟場へ向かうべ。そん中で何かあるのは、いつも決まった人なんだ。何も無い所を歩いていても、その人だけが何かに足を引っ張られることがあるな。おらは無いけど、そういえば従兄弟には妙なことがあったな」
「あれ、また来たよ」「何?何が来た?」「いや、あの前から来る人、あの女の人な、昨日もここですれ違ったんだあ」「おめ、何しゃべってる!どこにもそんな奴いねでねか」「見えてねって……じゃあ、あの女は何だべ」
・列の最後尾を歩いている人のリュックを何者かがぐっと掴んだのである。そんな時は絶対に振り向いてはならない。そして大声を出して騒いでもいけない、静かに少し待つのである。そうすれば、かならずその何者かは去っていくらしい。「山に慣れていない人ならパニックを起こすでしょうねえ。それが滑落事故なんかに繋がるんじゃないでしょうか」見えない何かがそこにはいるようである。
・「山がねえ、もの凄い音を立てるのね。森の木もゴウゴウと揺れるんだけど、風はないのよ、まったく風も無いのに山の木々が大揺れして、激しく音を立てたことがあったそうだ。
・まるで山は生きもののように、時折何らかの意志で動くらしい。「樹齢が二、三百年くらいの木になると風が吹くんだぁ。切り倒す時にな」
科学では解明できないことが、やっぱるあるんだねえ。不思議だねえ。超オススメです。(・o・)