「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「版画を彫るエネルギーの膨大さ」(上席工芸官 栗嶋茂)

   


エッシャーが僕らの夢だった


先日、このブログで紹介した、エッシャーが僕らの夢だった」(野地秩嘉)。

その中で特に驚いたのが「版画家」という存在。軽く考えていただけど、版画家ってスゴイんだなあ…。と、感動したので、そのエッセンスを紹介したいと思います。


「描くのと彫るのじゃ全然違います。表現も違いますが、手間が圧倒的に違いますよ」そう表現するのは大蔵省印刷局の上席工芸官である栗嶋茂彼の仕事は日本銀行券、つまり紙幣の原版を彫ることだ。現在、日本の紙幣はオーストラリアのそれと並んで、精緻さ、美しさ、偽造のしにくさにおいて、世界の頂点にあると言われている。栗嶋はアーティスト(芸術家)ではなくアルチザン(職人)として版画という表現形式を極めている男なのだ。



「人の顔、なかでも目、鼻、口は線を一本彫り間違えただけで、まったく感じが違ってしまいますから」一枚の原版を彫る場合も決してひとりではやらない。ひとりで全部彫るのは負担が大き過ぎるし、時間もかかってしまうからだ。栗嶋は現在の五千円札の裏にある五千円という文字と富士山の周りを囲う枠を彫ったが、それでも根をつめて一ヶ月かかっている。肖像の場合は三ヶ月はかかるというから、紙幣一枚を彫り上げるのに、ゆうに半年はかかってしまうのだ。それを考えると、版画家という仕事にいかに労力が必要かということが理解できる。


・紙幣の製作工程をざっと説明すると、まずは下図の制作から始まる。下図が大蔵大臣の決裁を経たら、制作に入るのだが、彫りを担当する工芸官はすぐにビュランを握るわけではない。資料を読み、取材、調査に入る。肖像一つ彫る場合でも、その人の業績、性格、家庭環境を調べ理解して彫るのと、写真一枚もらって仕事にかかるのとでは出来が違ってくるのだ。さらに徹底しているのは、たとえば五千円の新渡戸稲造の場合であれば、孫なり親戚なり、できるだけ多くの親族を訪ね歩いて、骨格や顔つきの似ている人物を捜す。そういう人々に面談をし、ニュアンスをつかむと、出来上がりのイメージが確固としたものになる。取材が終わるといよいよ制作だ


肖像画の髪の毛ならば一本の長さを7ミクロン(1ミクロンは千分の1ミリ)から100ミクロンという細い線に彫り分ける。ミクロン単位の太さの違いはルーペを通して肉眼で確認するのではなく、手の感覚だけで彫り分けることができるという。およそ超人的な作業なのだ。日本に12人しかいないと工芸官たちは、技術が落ちないための練習を欠かさない。エングレーヴィングだけではなく、彫刻刀を使った木板も、クレヨンを使ったリトグラフもやる。それぞれの技法の特徴を理解するにはやはり自分の手を使って、体で覚えるしかないのだ。


「銀行券を彫ってる間は宿酔にもなれないし、神経が研ぎ澄まされる」版画家という人種は生活のすべてを版画に捧げているのではないか。彼は心から満足している。改札、すなわち銀行券の新旧交替は20年もしくは30年に一度しかない。彼らは平時は、切手、国債、JRやJTの株券、都道府県発行の証紙や印紙といったものを彫りながら、その日を待ち続けている。「銀行券が彫れて嬉しかったです。幸せですよねえ、私の一生は」栗嶋は微笑しながら、そう言う。


版画家って、アーチストってスゴイねえ…。版画を見る目が変わりました。その集中力とエネルギーを真似たいね。オススメです。(・∀・)


   


エッシャーが僕らの夢だった