「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「津山三十人殺し 日本犯罪史上空前の惨劇」(筑波昭)

  


津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)


この本は、読みたくなかった。しかし、最後まで読まずにいられなかった……。今から80年近く前にこんな事件があったなんて知らなかった……。横溝正史八つ墓村』、松本清張『闇に駆ける猟銃』、名だたる作家たちが、幾度となくこの事件の真相に迫ろうとした!


一夜のうちに、村人30人を殺害──昭和13年岡山県内の農村で起こった「津山事件」。小説八つ墓村」のモデルにもなった大量殺人事件の真相とは!?漆黒の晩、日本刀一振と匕首二口、そして猟銃をぶら下げ襲撃を遂行し、その後、自らも果てた男の抱える闇とは何だったのか?丹念な取材と豊富な捜査資料をもとに再現される、戦慄の惨劇。日本犯罪史に暗い影を落とす“大量殺人の記録”に迫る。不朽のノンフィクション」そのエッセンスを紹介しよう。



・事件ルポに携わるライターや編集者が集まると、「これまで最もショッキングだった殺人事件は何か?」などのランキングが話題になる。己が取材した事件だけだでなく、見聞きしたもの、生まれる前のものもある。帝銀事件、吉展ちゃん誘拐殺害、赤軍派粛清連続殺人、幼女連続猟奇殺人、酒鬼薔薇事件、池田小無差別児童殺傷……「しかし、あれには負けるよな。岡山のーー」途端に座が静まり返る。誰もが言葉を失い、顔を見合わせる。「まあ、遥か昔の事件だからな」70年近く前に起きた事件でありながら、それを口の端に載せた途端、忌まわしいタブーの数々と漆黒の闇が迫り、口を噤まさせてしまう。


昭和13年5月、中国山地の人口110人余りの集落を舞台に、一夜にして30人が殺された事件は、そのスケール、爆発力、そして流された鮮血と臓物の量、すべて桁外れである。世界に目を移せば50人、100人の犠牲者を出した大量殺人事件もあるが、長期に亙ったものばかりだ。一夜にして、それも二時間足らずの間にひとりで30人を惨殺した事件は、世界でも空前絶後である。この未曾有の大事件の全貌に、当時の警察・検察資料、証言等から迫った、質量ともにヘヴィなルポルタージュである。


・深夜、22歳の都井睦雄は愛する祖母の首を斧で叩き切り、それを狼煙(のろし)とばかりに、恨みを持つ村人を猟銃と日本刀で殺しまくり、自らも心臓を撃ち抜いて果ててしまう。都井は遺書に村人への呪詛の言葉を綴った後、こう記す。

僕が此の書物を残すのは自分が精神異常者ではなくて前持って覚悟の死であることを世の人にみてもらいたいためである〉ただひとりの肉親である姉宛の遺書では、殺人鬼らしからぬ配慮も見せる。〈ああ僕も死にたくはないけれど、家のことを思わぬではないけれど、このまま活かしていたらどうせ結核にやられるげきだろう。そうしたら、近隣の鬼のような奴等は喜ぼうけれど僕はとてもうかばれぬ。どうか姉さんは病気を一日も早く治して強く強く此の世を生きて下さい。僕は地下にて姉さんの多幸なるべきを常に祈って居ます


犯行のキーワードは3つ。両親との死別、結核、それにセックスだ。事件当時タブーとされた、蛇の群れが絡み合うような村のセックスを生々しく描くと同時に、昭和11年(都井20歳)5月の阿部定事件が影響を与えている。本書は優れた事件ルポであると同時に、人間が本物の悪魔へと堕していく様を克明に記した、極めてまれな記録である。


阿部定は好き勝手なことをやって、日本中の話題になった。わしがどうせ肺病で死ぬなら、阿部定に負けんような、どえらいことをやって死にたいもんじゃ」もしこれが事実とするならば、都井の凶行の動機には、結核による絶望と部落民への憎悪のほかに、強烈な自己顕示欲があずかっていたにちがいない。西加茂村尋常小学校始まって以来の秀才と目された彼の意識は不条理な屈折の果てに、空前絶後の大量殺人というかたちにおいて、はじめて自己顕示の完成を遂げたのかもしれない。


スゴイ……どうやって取材したんだろう……「事実は小説より奇なり」とは、このことを言うのだろう。小説でもここまで書けないし、ここまでの事件は起こさないだろう…スゴイ、スゴすぎる……。あまりに生々しすぎるけど、興味ある方のみ、お読み下さい。

  


津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)