本のことを書かれた本っていいよね。リストをみるとどんどん読みたい本を増えて2500冊くらいあるんじゃないかな!?生きているうちに読めないのが残念っ!!!( ー`дー´)キリッ
さて、この本。NHK「100分de名著」で出会った約100冊より、伊集院光が、心に刺さった3冊を厳選。名著をよく知る3人と再会し、時間無制限で新たに徹底トークを繰り広げる、100分de語りきれない名著対談」そのエッセンスを紹介しよう。
「おくのほそ道」は今から三〇〇年あまり前、 松尾芭蕉が東国を巡った旅をもとに書いた文章です。 原稿用紙にすれば三十数枚の短いものですが、今や『源氏物語』 とともに日本を代表する世界文学の傑作と評価されています。 それは『おくのほそ道』が単に旅を記録した紀行文ではなく、「 人間は時間の猛威の中でどう生きればいいか」という、 誰にとっても切実な問題をテーマに芭蕉が書き上げた芳 醇な文学作品だからです。
この旅の三年前、芭蕉は名吟〈古池や蛙飛こむ水のおと〉 を詠んで俳句の世界に一大革命を起こしました。 この句は俗にいわれる「古池に蛙が飛びこんで水の音がした」 という単なる現実描写の句ではなく、「 蛙が水に飛びこむ音を聞いて、心の中に古池が広がった」 という心の世界を表した句です。この句によって長い間、 言葉遊びやダジャレにすぎなかった俳句が心の世界を詠む文学に生 まれ変わりました。
思えば宇宙のすべては時間とともに無から生まれ、 時間とともに無へ消え去ってゆきます。 それに伴って人間の世界では時間とともに誕生と死、 出会いと別れが繰り返されます。 それはこの世界に人間として生まれた以上、 逃れられない宿命です。 この変転極まりない虚しい人生をどう生きるか。 これが芭蕉が生涯問いつづけた大問題でした。
・俳句を嗜んだことのない僕は、 この句の何がすごいのかがわかりませんでした。そこで、 先生から教えてもらったキーワードが、「古池に」ではない、 でした。
この言葉は強烈でした。普通は、 古池に蛙が飛びこんで水の音がしたんでしょ、としか思わない。 言い訳するわけじゃないけど、 僕だけでなくほとんどの人がそういうふうに思うんじゃないですか ね。この句が詠まれた場にいた弟子が、 誕生のいきさつを書き残しています。それによると、 まず庵の外から、鮭が水に飛びこむ音が聞こえてくるんですね。
僕自身、どんなに高性能のカメラができても、話芸は勝つ、 って思いたいんです。カメラでは撮ったそのまま、 映ったそのまましか伝わらない。 人間の目の能力を超えたカメラは、 見た以上を映すかもしれないけど、空気感? 雰囲気は、なくなっている。?
・俳句の世界では、たしかに江戸時代ぐらいまで、 見えないものを言葉で写すということを普通にやっていたと思うん ですね。
ところが明治になって、 正岡子規という人が出てきて、 俳句は目に見えないものを詠んではいけない、 ちゃんと目に見えるものを描けという写実主義を唱えた。 そのために、 言葉になっているのは全部目に見えるものだという、 ひとつのフィクションができあがったんです。
・芭蕉は一七世紀後半の人で、その少し前まで戦国時代です。 戦国時代に日本の文化はほとんど破壊されてしまった。芭蕉には、破壊されてしまった王朝時代や中世の文化を、 もう一回、 江戸時代という新しい時代の中で復活させたいという思いがあった んです。これが芭蕉の一つの原動力でした。しかし、和歌をやったのでは以前と一緒になってしまう。 だから俳句という新しい器の中で、 昔の文化を蘇らせようとしたわけです。創造的復興です。
・夏草や兵(つわもの)だけが夢のあと
同じ場所に立ったとしても僕の感性では、 一面夏草が生えているなあ、荒川土手みたいだなあ、 程度しか感じとれません。それを芭蕉は十七字で時空を超えて、 以前そこで壮絶な戦いがあったことまで伝えている。 この時空の超え方がすごい。
・京にても京なつかしやほととぎす