「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

ESSAY〜「カバディ性」(岸本佐知子 『ベスト・エッセイ2017』

いいなあ。やっぱり岸本佐知子さん。岸本節は健在っ!!!読んでいるだけでハッピーになる!そのエッセンスを紹介しよう。
 
【カバディ性】
 
・今から二十年ぐらい前、友だちの家に数人で集まって話をしていた。
どういう流れでそうなったのだったか、話がカバディのことになった。ほかの誰もカパディの存在を知らなかったので、私は説明した。数人ずつ二手に分かれて競うスポーツであること。守備の側が手をつなぎ、攻撃側は「カバディカバディカバディカバディ」 と言いながら鬼ごっこのように相手をつかまえること。息が続いているあいだだけ攻撃できること。
私の説明を聞いて、全員爆笑した。なにそれー。そんなのあるわけないじゃないー。 ほんっとヒマだよねー。何なのカバディってー。
私はなおも必死になってカバディの実在を証明しようとした。インドが発祥の地であること。このあいだ観たブッダの伝記映画の中でもブッダがカバディをやっていたこと。
ブッダ役がキアヌ・リーヴスだったこと。そのうちオリンピック競技になるかもしれないこと。
 
 全員腹をかかえて笑った。いやいやいや。ないわー。よくそんなの思いつくよねー。キアヌかっこいいよねー。
 
そこに遅れて、もう一人の友人がやって来た。誰かがその人に言った。ちょっとちょっと聞いてよ、この人がカバディっていうスポーツがあるって言うのよ。カバディカバディって息が続くかぎり言うんだって。
 
その友人は「ああ、あるよねカバディ。インドが発祥のスポーツなんでしょ」と言った。 するととたんにみんな「あ、そうなんだ」とあっさり納得した。
 
私は釈然としなかった。なぜ私があれだけ力説しても誰も信じようとしなかったのに、 別の人が同じことを言うと無条件に信じるのか。だが話題はすでに別のことに移ってしまっていた。のちに私の中で「カバディ事件」として記憶されることになる悲しい出来事である。
 
悲しくはあったが、現象に名前がついたのは有益だった。このカバディ現象は、「今日は何曜日か」から始まって小学校の時の先生のあだ名にいたるまで、その後も繰り返し私の人生に現れることとなった。
 
考えてみると、私は待ち合わせ場所に行くと「電車、ちゃんと乗れた?」と訊かれることが多い。「毎朝何時に起きてるの?」とか「ごはん、作ることあるの?」とかもよく訊かれる。だが、ふつう大人はこういうことを訊かれるものだろうか。私の毛穴から、 いや存在そのものから発散される、人としての圧倒的な信ぴょう性のなさ。その「カバディ感」というか「カバディ性」というか「カバディさ」というかが、人をしてそんな質問をさせてしまうのではないか。
 
このあいだネットを見ていたら、高校生が世界的な大発見をしたという記事が出ていた。足の裏を消毒して雑菌を殺すと、蚊に刺されにくくなるのだそうだ。
 
彼は、妹が自分の何倍も蚊に刺されやすいことを不思議に思い、原因を究明するべくさまざまな実験を行った。その結果、蚊が妹の脱いだ靴下に激しく引き寄せられることを発見した。そしてついに、蚊に刺されやすい体質の人の足の裏には、人より多くの雑菌が生息していることを突き止めたのだという。
 
すばらしい。生活の役に立つうえに、誰にでも手軽に実行できる。彼の妹が学校でからかわれないかだけが少し心配だが。蚊に刺されやすいあの人やこの人に教えてあげたい。でも教えない。カバディの二の舞はごめんだ。みんな蚊に刺されるがよい。
 
きしもと・さちこ(翻訳家) 「ちくま」10月号
 
やっぱり「何をいうか」じゃなくて「誰がいうか」だよねー!オススメです。(=^・^=)