「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「容疑者Xの献身」その2(東野圭吾)

 

15年前の年間ベスト1に輝いたこの本。最初は友人から借りたんだけど、これは借りている場合でない!ということで購入し、映画化されたときも何度も観て、本も何回読んだだろう。何度目からの再読で、またまた感動っ!!!ラストは涙が止まらない……。(T_T)

 

lp6ac4.hatenablog.com

 

「累計290万部突破。直木賞を受賞した大ベストセラー!天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作福山雅治主演で2008年に映画化され、堤真一松雪泰子の熱演も話題になった」そのエッセンスを紹介しよう。

 
自分が守らねばならない、と石神は改めて思った。自分のような人間がこの美しい女性と密接な関わりを持てることなど、今後一切ないに違いないのだ 。今こそす べての知恵と力を総動員して、彼女たちに災いが訪れるのを阻止しなければならない。
 
たしかに難問だった。死体の身元が判明すれば、警察は間違いなく靖子のところへや ってくる。刑事たちの執拗な質問攻めに彼女たち母娘は耐えられるか。脆弱な言い逃れを用意しておくだけでは、矛盾点をつかれた途端に破綻が生じ、ついにはあっさりと真実を吐露してしまうだろう。
 
完璧な論理、完璧な防御を用意しておかねばならない。しかも今すぐにそれらを構築しなければならない。焦るな、と彼は自分自身にいい聞かせた。焦ったところで問題解決には至らない。この方程式には必ず解はある――。石神は瞼を閉じた。数学の難問に直面した時、彼がいつもすることだった。外界からの情報をシャットアウトすれば、頭の中で数式が様々に形を変え始めるのだ 。しかし今彼の脳裏にあるのは数式ではない。やがて彼は目を開いた。
 
・「天才なんて言葉を迂闊には使いたくないけど、彼には相応しかったんじゃないかな。五十年か百年に一人の逸材といった教授もいたそうだ。科は分かれたけれど、彼の優秀さは物理学科にも聞こえてきた。コンピュータを使った解法には興味がないくちで、 深夜まで研究室に閉じこもり、紙と鉛筆だけで難問に挑むというタイプだった。その後ろ姿が印象的で、いつの間にかダルマという渾名がついたほどだ。もちろんこれは敬意を表しての渾名だけどね」湯川の話を聞き、上には上がいるものなのだなと草薙は思った。彼は目の前にいる友 人こそ天才だと思ってきた。
 
・ずいぶん長い間、こういう時間を失っていたことに、石神は改めて気づいた。大学を出て以来、初めてかもしれなかった。この男以外に自分を理解してくれる者はおらず、また自分が対等の人間として認められる者もいなかったのかもしれない。
 
数学の問題に対し、自分で考えて答えを出すのと、他人から聞いた答えが正しいかどうかを確認するのとでは、どちらが簡単か 。あるいはその難しさの度合いは どの程度か――クレイ数学研究所が賞金をかけて出している問題の一つだ」
 
・タクシーから降りてきた時の靖子の表情を、石神は今もはっきりと覚えている。それ までに見たことのない華やいだ顔をしていた。母親でも弁当屋の店員でもない顔だった。 あれこそが彼女の本当の姿ではないのか。つまりあの時彼女が見せたのは女の顔だったのだ。俺には決して見せない顔を、彼女はこの男には見せる――。
 
ほかのことは一切考える必要がなく、雑事に時間を奪われることもなく、難問への取り組みだけに没頭できたらどんなに素晴らしいだろう―――石神はしばしばそんな妄想に駆られる。果たして生きているうちにこの研究を成し遂げられるだろうかと不安になるたび、それとは無縁のことをしている時間が惜しくなる。
 
・「さらにいうなら、君の才能を失いたくないからだ。こんな面倒なことはさっさと片づけて、君には君のすべきことに取り組んでもらいたい 」 。君の頭脳を無駄なことに費やしてほしくない
 
・「こうした連絡ですが」彼は話し始めた。「この電話で最後とします。私から連絡することはありません。もちろん、あなたから私に連絡してもいけません。これから私にどのようなことが起ころうとも、あなたもお嬢さんも傍観者で居続けてください。それがあなた方を救う、唯一の手段です」彼が話している途中から、靖子は激しい動悸を覚えていた。
 
「あの、石神さん、それはあの、一体どういうことなんでしょうか」
 
いずれわかります。今は話さないほうがいいでしょう。とにかく、以上のことを決して忘れないでください。わかりましたね」
 
・ 『工藤邦明氏は誠実で信用できる人物だと思われます。彼と結ばれることは、貴女と美里さんが幸せになる確率を高めるでしょう。私のことはすべて忘れてください。決して罪悪感などを持ってはいけません。貴女が幸せにならなければ、私の行為はすべて無駄になるのですから
 
これほど深い愛情に、これまで出会ったことがなかった。いやそもそも、この世に存在することさえ知らなかった。石神のあの無表情の下には、常人には底知れぬほどの愛情が潜んでいたのだ。
 
誰かに認められる必要はないのだ、と彼は改めて思った。論文を発表し、評価されたいという欲望はある。だがそ れは数学の本質ではない。誰が最初にその山に登ったかは重要だが、それは本人だけがわかっていればいいことだ。
 
彼女たちとどうにかなろうという欲望は全くなかった。自分が手を出してはいけないものだと思ってきた。それと同時に彼は気づいた。数学も同じなのだ。崇高なるものには、関われるだけでも幸せなのだ。名声を得ようとすることは、尊厳を傷つけることになる。
 
・ 靖子たちに安らぎを与えるには方法は一つしかない。事件を、彼女たちと完全に切り離してしまえばいいのだ 。一見繋がっていそうだが、決して交わらない直線上に移せばいい
 
「君にひとつだけいっておきたいことがある」湯川はいった。
 
なんだ、というように石神が彼を見返した。
 
その頭脳を・・・・・・その素晴らしい頭脳を、そんなことに使わねばならなかったのは、とても残念だ。非常に悲しい。この世に二人といない、僕の好敵手を永遠に失 ったことも。石神は口を真一文字に結び、目を伏せた。何かに耐えているようだった。
 
「どうして、こんなところに・・・・・・」呟いた。凍り付いたように動かなかった靖子の顔が、みるみる崩れていった。その両目から涙が溢れていた。彼女は石神の前に歩み出ると、突然ひれ伏した。
 
「ごめんなさい。申し訳ございませんでした。あたしたちのために・・・・・・あたしなんかのために・・・・・・」背中が激しく揺れていた。
 
「何いってるんだ。あんた、何を・・・・・・おかしなことを・・・・・・おかしなことを」石神の口から呪文のように声が漏れた。
 
あたしたちだけが幸せになるなんて・・・・・・そんなの無理です。あたしも償います。罰を受けます。石神さんと一緒に罰を受けます。あたしに出来ることはそれだけです。あなたのために出来ることはそれだけです。ごめんなさい。ごめんなさい」靖子は両手をつ き、頭を床にこすりつけた。
 
石神は首を振りながら後ろに下がった。その顔は苦痛に歪んでいた。
 
くるりと身体の向きを変えると、彼は両手で頭を抱えた。
 
うおううおううおう―――獣の咆哮(ほうこう)のような叫び声を彼はあげた。絶望と混乱の入り交 じった悲鳴でもあった。聞く者すべての心を揺さぶる響きがあった。
 
うーん。ますます深みが理解できた。永遠の名作だね。何度も何度も読み返すだろう。これを読まずに死ねない!!超オススメです。