「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「生のみ生のままで〈上〉〈下〉」(綿矢りさ)

綿矢りささんの本を初めて読んだ。上下巻一気に読みました。いや〜!これすごいわー!圧倒的な表現力!!!実体験よりも詳細で濃密で官能的な言葉の数々。女性同士の恋って美しいなあ。男女を超えているよね〜!(・∀・)
 

「25歳、夏。逢衣は恋人の颯と出かけたリゾートで、彼の幼馴染とその彼女・彩夏に出会う。芸能活動しているという彩夏は、美しい顔に不遜な態度で、不躾な視線を寄越すばかり。けれど、4人でいるうちに打ち解け、東京へ帰った後も、逢衣は彼女と親しく付き合うようになる。そんな中、彼との結婚話が出始めた逢衣だったが、ある日突然、彩夏に唇を奪われ──。女性同士の情熱的な恋を描く長編。第26回島清恋愛文学賞受賞作!」そのエッセンスを紹介しよう。


誰かが甘く誘う言葉に心揺れたりしないで
君をつつむあの風になる
 
あの日あの時あの場所で君に会えなかったら
僕等はいつまでも見知らぬ二人のまま
 
・「琢磨は付き合ったときからずっと優しくて私を見守ってくれて、どんなに私の状況が変わっても変わらず愛してくれて、だからあの人を悲しませてしまったのが、自分でも許せない。でも私はどうしても諦められない。人をこんなに好きになることが世の中にあるって、今まで私は知らなかった
 
・唇に残された彼女の唇の感触は、逆に日に日に生々しさを増す。二度も唇を押し付けられて。もしかして私に隙があったのかもしれない。飛び上がるほど恥ずかしい
 
・「逢衣と少しでも会えるだけで私は朝から晩まで仕事できそうなくらい頑張れる。顔を見れただけで明日も生きようっって思えるくらい元気が湧く。本当は毎日でも会いたい。」男も女も関係ない。逢衣だから好き。ただ存在してるだけで、逢衣は私の特別な人になっちゃったの逢衣に会うまで女の人なんてむしろ嫌いなくらいだったよ、どんな魅力敵な女の子でもライバルとして思えなかったし女友達もほとんどいない。でも逢衣だけは性別を超えて、特別の格別の存在として私の目に入ってきた。女の人をすきになれなくてもいいよ。私さえ好きになってくれれば
 
・「初めて見たとき、逢衣が異常に綺麗に見えて、まずいなと思って避けようとしたけど、逢衣が近くにいると、どきどきして見つめたくてしょうがなかった。琢磨が好きで、上手く行ってたのに、なんであんなに意識してしまったのか、今でも分からない。ホテルのロビーで逢衣を見たときから、私はもうだめだった。うわ、すごい好みのタイプだった直感で思った。でも女の人に対して好みがあるなんて、考えたこともなかったし、そんな風にすぐ思った自分に、かなり引いた
 
あれは一体何だったのだろう。彩夏の気配ー息遣いや匂い、服の生地に包まれた身体の輪郭が分かるぐらい彼女が近づくと、戸惑うくらいはっきりと、身体に変化が起こった。緊張と警戒がみるみる溶けて、身体の外側が内側へ心地よく融合していき、体温が上昇して背中で汗が湿り、力が入らなくなった。エストを彼女の方に軽く引き寄せられただけで、思わずそのまま抱きつきそうになった。
 
・私はもしそのときの逢衣に出会えてたら、絶対に今と変わらず告白してたよ。何歳でも、いくら太ってても、ニキビだかけでも、私は逢衣を見つけ出して好きになる自信がある。
 
私を欲しがって待ち望んでいる身体に、圧倒される。肌の色が、体温が、弾力が、呼吸に伴う微かな上下動が、みずみずしくて全て目に染みるようだ。
 
「逢衣は果物にたとえると梨だね。さわやかで薄くて甘い味で、水分多めで涼しい冷たさで。噛むとすぐ口の中から消えちゃうから、食べても食べても満足できない」それなら彩夏は赤黒い果皮で艶のある大粒のダークチェリーだ。熟れきってジューシーな血みたいに赤い果汁は喉を焼くほどの甘さにまとわりつき、甘酸っぱい果肉が去った舌の上には、硬くて小さな種が残る。でも糖度低めの梨の身としては、恥ずかしさが邪魔して口には出せなかった
 
・初めて女性と付き合って分かったのは、男性と付き合うよりも、交ざり合ったとき圧倒的に雑味が少なく、純度が高いということだった。果てが無い。肉体的にはしっかりと交じり合えない分、終わっても少しの物足りなさが尾を引き蓄積されて、すぐにまたもっと欲しくなる睦み合いの区切りはドアではなくて障子で出来た衝立のように曖昧で、私たちは手を繋いでいくつもの衝立の脇をすり抜け、段階を進めてゆく。
 
これが恋ではないと言うなら、あなたは一体何を恋と呼ぶのか。
 
私たちは性急に関係を結び、楽園に住み続けることもできたのに、見つかると別々の方向へ逃げた。春めく秋、夏めく冬、季節を飛ばし、輝く鱗粉を撒き散らして羽ばたく蝶は、倍の速さで燃え尽きる。ちょうどろうそくの火を、火傷しながら指もつまんで消すように。
 
・恋人はいるんですけど会えないんです。会えるようになったらすぐにでも連れて来るんだけど」もう別れた恋人をまだ恋人だと他人に話している哀れな女。情けなすぎる自らの状況に、まだ馴染めない。思わずうつむいてしまった私に、バーテンダーが優しく尋ねた。「どんな方なのかお伺いしてよろしいですか」「夏を彩る台風」
 
・時の流れというものを私は甘く見ていた。七年間の欠損はどうやても埋められないほど私たちの間に黒く横たわっていた。しかし同時に忘れられない記憶の蓄積の大切さも知った。私たちには短かったが共に過ごした大切な、忘れられない日々の記憶がある。やっぱり過去は、リアルタイムで増えていく思い出には勝てない。
 
「誕生日には、私はどんなプレゼントより逢衣が欲しい」
 
・「この世界は、あなたと私がいるだけ。私はいま、彩夏と共に真っ白なゼロ地点にいる。これまでの彼女との歴史をすべて両手いっぱいに抱えたまま、私と彩夏は、足並みをそろえて新しい道に踏み出そうとしている」
 
・私たちは再びお互いの身体を、まるで自分の身体のように知り尽くした。いや、自分の身体よりもよっぽど詳しいかもしれない。私は自分の身体の部位ごとの匂いや味や歯触りまではよく知らないのに、私にとっては届かない部位さえもすべて彩夏は仔細に把握してるのだから。
 
・「おはよう。私が隣にいなくて、さびしくて眠りづらかった?」「うん。夜明けは気温が下がるから、やっぱり人間暖房が隣にいないとダメだね」
 
私たちはスープなんか飲まなかった。暖かくなる方法を、他に知っている。
 
・彼女としている時、ふいに天国から地獄へ落下したような気分になる瞬間があった。途方も無い闇に呑み込まれ、自分としているような錯覚に陥り、叫びだしたくなる。ある道をまっすぐ走るとき、私は極度に興奮している、しかし曲がり角で折れた瞬間、幽霊を見たかのように飛び上がり今来た道を逆走する。今でもまだ私は少し怖いままだ。だからこそ、やめられない。いくつもの曲がり角を手探りだけで進んでゆく。
 
・裸になった私たちの、お互いが混じり合う香り。そう、私の身体からも似た香りがする。そういう気分になると、体温の上昇と共に脇の上、肩の前面辺りから発散されるフェロモン。フェロモンは下半身ではなく、明らかに上半身から匂いの霧が溶け出してくる。脇、首、胸、心臓……。
 
 
ねえ、いつだって自信満々でいてよ。いつまでも太陽の下でしようよ。私たち、どうなっても、見てるのはお互いだけ肉がつこうが、頬が痩けようが、骨になっても二人でいようよ。何故だろう、彼女が美しければ美しいほど、命の儚さを思い知るのは。自分たちが、やがては滅びる肉体の持ち主だと、嫌というほど意識させられる。上手く言えない。でも、忘れない。
 
・誓いの言葉は、すぐに風に抱かれてかき消えた。彩夏がケースを取り出して開け、私たちは並んでいる結婚指輪をお互いの指に通すと、その手を固く握り合った。そして目を閉じて唇を合わせた。私たちを見守る風が、空が、海が、永遠の証人となった。
 
 
「ニコライ・カプースチンのピアノを聴きたくなった。読み終わってから改めてこの表紙を見ると美しすぎる。これだけで愛が伝わる。久しぶりに恋をしたくなりました。
この本だけで、恋の歌が100曲くらいできそうだ。超オススメです。(・∀・)