・夫が縁側で爪を切った時、その爪を踏むと痛い、 というものだった。男の爪は硬いということだが、 こういう視点は男の脚本家でも思いつかないことだった。それを「 家庭の中に宝石が落ちている」シーンと久世は褒めた。 すぐに役者たちも、「脚本(ホン)が面白い」と言い出した。 それで久世たちスタッフは向田起用に自信を持ったのだ。
・一晩カーテンを閉めないままの窓が白みかけていた。 街路樹の木の葉が風に舞う向こうに、 青山墓地が見えて私はドキッとした。ドキッとして振り返ると、 向田さんはソファに端然と坐ってきれいだった。 疲れた顔だったが、伏し目がちできれいだった。私と目が合うと、 どうしてかニコッと笑って台所へお湯を沸かしに立って行った。 ボッというガス野音がする。長い夜が終わろうとしていた。 こうやってなんでも終わるのだ。 とにかく終わることは終わるのだ。私はそれでいいが、 向田さんはいろいろ忙しくなる。入院の支度とか、 猫の預け先の算段とか、約束していた原稿の断りとか、 黙って考え込む暇もないことだろう。それをあの人は、 順序よくテキパキとやってのけるだろう。 まるで友人の入院の段取りをつけるみたいでー。 そう思ったら急に涙が出てきた。私は、 少なくともあの一夜だけは、あの人を愛していたのだと思う。
・さびしい恋をしていた。あの人の恋は、みんなそんな恋だった。 ここで自分の気持ちを通したら、きっと誰かが一人不幸になる。 そういう赤提灯の歌謡曲の世界で泣いていた。 ちっともおしゃれでない殺伐とした風景の隅っこで、 じたばたしていた。なんとなく、私は知っていた。 なんとなく私が知っていることを彼女も知っていた。
・通俗的な言い方だが、棺桶の蓋を閉じて人生が終わるときには、 みな辻褄が会っているのではないか。 向田邦子とは長いつき合いだったが、 やはりあれ以外の死に方はなかった気がしている。 辻褄が合っているなと思う。彼女は昭和に生まれて昭和に死んだ。 ひばりや裕ちゃんと同じように、 あれはひとつの形なのだろうと思う。
「さくらの唄」(なかにし礼・三木たかし)せい子宙太郎-忍宿借夫婦巷談、主題歌:さだまさし「桃花源」音楽、清須邦義さんだったんだねー!懐かしいなあ。普段はドラマを観ないワタシだけど、向田作品だけは別。観てみたいわ。オススメです。(・∀・)