「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「森繁の重役読本」(向田邦子)

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この本は、貴重だよ〜!作・向田邦子、朗読・森繁久彌の名コンビで2448回も続いたラジオエッセイの台本から選りすぐりを再編集したものである。森繁久彌が“手品”と絶賛した会話術と視点から、昭和の豊かな人間模様を甦らせた本書は、向田邦子の本格的デビュー作であり、後に名作と謳われる小説・エッセイの種が随所に鏤められた傑作。そのエッセンスを紹介しよう。
 
 
「余白の魅力ー森繁久彌さんのことー」
 
手の美しい人である。ガッシリと男らしい、それでいて、やわらかな表情を持った、実に豊かな手をしている。手はみごとな芝居をしている。おみ足は拝見したことがないから知らないけれど、足の芝居も、鮮やかものである。森繁さんをみていると、神様は何と不公平なものかとひがみたくなる。絵がうまい。字がうまい。ダンスはプロ急、スピーチは日本一。こういう人の脚本を書くのは、まったく憂鬱な仕事である。どう転んでも、こっちは十分の一の人生経験もない。破れかぶれと背のびで、必死に食い下って十年余りのおつきあいになってしまった。
 
思えば、さしたる才も欲のないズブの素人の私が、どうやら今日あるのは、フンドシかつぎがいきなり横綱の胸を借りて、ぶつかりげいこをつけてもらったおかげと有難く思っている。
 
森繁さんで感心するのは、抜群の記憶力である。セリフ覚えのよさにかけては、この人と森光子さんは、双璧である。パッと台本のページをめくって、感じで覚える。時の並び、漢字と仮名のまざり具合、セリフとト書きの感じを、連続した光景のように、頭の中で記憶されるのだろう。絵心と特有のイマジネーション、そしてことばに対する鋭い感覚がなくてはとてもこういうわけにはいかないだろう。森繁さんの芸の特色は、この人の描く色紙と同じに“余白”の魅力である。セリフとセリフの間、歌う前の、短い一瞬がおもしろい。この人は、ほかの人の一秒を、十倍にする能力と、十秒を一秒にする奇妙な能力がそなわっている。
 
私は、この人の、一滴胡散臭いところが大好きだ。正義を説き純粋な感動をさそいながら、どこか一パーセント嘘っぱちな、曖昧なところのまじるおもしろさ。この胡散臭さがなくならないかぎり、私は、この人の脚本を書きつづけてゆきたい。そう思っている。
 
 
「ソース」「オヤチビガエル」。これホント!?この脚本は、たまたま森繁さんが保管していたから世に出せたんだよね。奇跡的だよね。昭和の重役ってこんな感じだったんだね。オススメです。(・∀・)

 

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