「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「金継ぎの家 あたたかなしずくたち」(ほしおさなえ)

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金継ぎの家 あたたかなしずくたち (幻冬舎文庫)
 

  活版印刷 三日月堂でハマったほしおさなえさん。今年は全作品読破を狙っています!♪その描写と表現力はさすが詩人っ!!!だね。活版印刷もこの本のテーマでもある「金継ぎ」も、読み進めるたびにその魅力に引き込まれるっ!

 

「高校二年生の真緒と暮らす祖母・千絵の仕事は、割れた器を修復する「金継ぎ」。進路に悩みながらもその手伝いを始めた真緒はある日、引き出しから漆のかんざしを見つける。それを目にした千絵の困惑と故郷・飛驒高山への思い。夏休み、二人は千絵の記憶をたどる旅に出る――。選べなかった道、モノにこめられた命。癒えない傷をつなぐ感動の物語」そのエッセンスを紹介しよう。
 
 
漆は漆の木の樹液で、塗料にもなるし、接着剤にもなる。よく金継(きんつ)ぎって言うけど、金で継ぐわけじゃない、ないんだよ。ほんとは漆で継ぐんだ。最後は金の粉で仕上げれば金継ぎ。でも銀で仕上げるときもあるし、器の色に合わせて色は色々できる。
 
金継ぎは手間と時間のかかる仕事だ。費用もかかるから、大抵は新しいものを買った方が全然安い。でも、手作りの焼き物は一点物であることも多く、同じものとは出会えない。誰かに贈られたもの、長く使ったもの、思い出があるもの。希少でなくても、高価でなくても、その器に特別の思い入れがある、という場合もある。つまり祖母のところの集まってくるのは、時間とお金がかかってもどうしても直したい器がほとんどだ。
 
「漆っていうのは不思議なものでね。『乾く』って表現するけど、湿気がないと乾かない。漆が乾くっていうのは乾燥するのとは違ってね。漆は空気中の湿り気を吸って固まるんだよ」
 
・「夫はね、言ったの。ずっと研究ばかりで、お前の話を全然聞いてやれなかった。研究は蝶みたいなものなんだ。いつも頭のどこかで研究のことを考えていて、あるときふっとどこからか蝶があらわれる。そうなるともうダメなんだ。早くそれを捕まえなければ、って、いてもたってもいられなくなる。蝶を追いかけるだけの人生だった。お前に結局何もできないまま、先に死んでしまう。ごめんな、って」
 
・「昨日の夜に見たとき、これがおばあちゃんの生きる力だったんだな、って思ったから」生きる力。その通りだ。あのかんざしがわたしの生きる力だったいままでずっと、どうにもならないときにぶつかるたびに、あの赤いかんざしを見て生きてきた。わたしは修次さんに、そのお礼をしなければいけないんじゃないか。目からぼろっと涙が出た。
 
世界はうつくしい、と思った。わたしがこの世界とさよならする日もそう遠くないとわかっているのに、こうして川を見ているとなんだか信じられない。川はずっと流れていて、わたしもずっとこの世界にいる。そんな気がしてくる。
 
わたしが死んだあとにも未来はあるし、わたしはいまもその未来につながっている。未来のためになにかすることができる。知っている人が亡くなるたびに、自分がだんだん世界から追い出されていくように感じていたが、自分からつながるものがちゃんと世界に残っていくのだ。
 
・わたしにとっても、金継ぎをしている時間は特別だと思う。心が研ぎ澄まされ、深いところが燃える。自分の中の魂が瑞々しく息づいているのを感じる。身体の真ん中に、あの時間にだけ生きている部分がある。
 
 
明治、大正時代の恋って、いいね。切ないね。美しいね。純粋だね。いいなあ、なんて優しい文体なんだろう。オススメです。(・∀・)

 

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金継ぎの家 あたたかなしずくたち (幻冬舎文庫)